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事故リスクを割り出して情報発信。災害対応のシステムも新たに導入。

構想から10年余りを費やして完成。第4世代交通管制システム「HI-TEX」

交通流の制御やドライバーへの適切な情報提供を通じて、高速道路の安全・安心・快適な走行を支える交通管制システム。阪神高速は、2021年4月4日、初代から数えて4代目となる交通管制システム「HI-TEX」の運用を開始した。構想から10年あまりにおよんだプロジェクト。最前線を支えた技術者に話を聞いた。
18年ぶりの全面リニューアル
2021年4月から正式運用開始

渋滞などの深刻化する課題を解決するため、阪神高速が交通管制システムを導入したのは1969年。その後、時代の変化に対応しながら改良・拡張が重ねられ、2003年には3代目システムが稼働を始める。だが機器の老朽化や交通環境の変化、情報通信技術の飛躍的な進歩にともない、2009年から全面リニューアルに向けた検討を開始。10年余りの歳月を費やして新世代の交通管制システムが、2021年4月から正式運用を開始した。それが「HI-TEX」(*)だ。交通管制システムの全面リニューアルは、実に18年ぶりとなる。
*HI-TEX=High-tech traffic control system for the Hanshin Expressway

交通管制システム
高速道路会社で初の試み
大規模災害にも万全の備え

最初に「HI-TEX」について、教えてください。

樽岡

阪神高速道路の円滑な運用にむけて、複雑な交通流を一括管理する新しい交通管制システムを「HI-TEX」と呼んでいます。初代のシステムから数えると4代目。これまでなかった新たな機能が、いくつも盛り込まれています。

樽岡達矢 管理本部 大阪保全部施設工事課 課長代理 2006年入社、電子情報通信工学科。民営化で生まれ変わった阪神高速。いろいろなことにチャレンジできると感じて入社。建設工事の現場監督として、淀川左岸線をはじめ数々の新線建設工事に従事。「HI-TEX」導入では、交通管制センターのリプレースをはじめ種々の工事で主担当を務める。

交通管制システムの役割

交通管制システムは、道路上に設置された監視カメラや車両検知器でさまざまなデータを集め、24時間365日体制で稼働する交通管制室でデータを分析。情報板などを通じてお客さまに提供し、事故などのアクシデントが起きると管制室の指令でパトロールカーが現場に急行して迅速な対応にあたるなど、高速道路をクルマがスムーズに流れるように制御する一連のシステムだ。

交通管制システムの役割

「HI-TEX」が、従来の交通管制システムと大きく違うのは?

樽岡

まずハード(設備)面でいえば、大阪の朝潮橋と神戸の京橋にある交通管制室のどちらか片方が大規模災害などで被災した場合、もう片方の管制室で全地区の管制業務が行える「相互バックアップシステム」を新たに導入しています。これによって大規模な災害が起きても、阪神高速が機能不全に陥る可能性は大幅に軽減され、高速道路としての安全性、信頼性が大きく改善されました。

お客さま目線に立つと?

樽岡

たとえば過去のさまざまなデータを分析し、どういった場所で事故が起こりやすいかなどを分析することで、一定の条件で事故が起こりやすい場所を事前に「事故リスク情報」としてお客さまに提供できるようになりました。これは日本の高速道路会社としては、初の試みとなります。また、道路上の情報板に表示される情報は、従来2.5分周期更新であったのが「HI-TEX」では1分周期となり、よりリアルタイムな情報提供が可能になった点も重要なポイントです。

速報性が高まれば、高速道路を利用するかどうかの判断や、本線上で途中退避すべきかどうかの判断をより適切に行なえるようになりますね。

樽岡

今までは情報板に渋滞している区間と渋滞の長さが表示されるだけでしたが、「HI-TEX」では、その渋滞を抜けられるのにどれくらいの時間がかかるのか、「渋滞通過時間」も表示できるようになりました。さらに突発的な道路上での事案処理状況についても、情報板で表示可能となるなど、お客さまへの情報提供が飛躍的に拡充されました。

渋滞通過時間の表示

事案処理状況の表示

HI-TEXがめざすもの

交通管制システムの全面リニューアルは、さらなる安全・安心・快適な道路環境の実現をめざして行われた。

>HI-TEXの特徴

作業効率を高めるレイアウトとディスプレイ
交通管制室の業務効率化にも貢献
向井

「HI-TEX」では管制員の作業効率化も追求されています。たとえば管制業務にあたる交通管制室は、管制員の方が作業しやすいようにレイアウトされ、大画面のグラフィックパネルは、とても見やすくなっています。また管制員の方は事案が発生した場合に管制卓への入力作業とは別で手書きのカルテをつくっていました。しかし、それも新システムでは電子化され卓への入力に併せてカルテも自動作成が可能となり管制員の負担軽減のほか、関係者の間で情報共有もしやすくなりました。
*カルテ:どこでどんな事案が発生したのか、詳しい内容を記した記録

向井梨紗 保全交通部交通技術課 主任 2011年入社 建設工学専攻 「大きな構造物をつくりたい」と阪神高速に入社。現場事務所を皮切りに、計画部、グループ会社(阪神高速技術)などを経験した後、保全交通部で「HI-TEX」プロジェクトに参加。事故リスクの情報提供や広報に従事。現在はお客さまへの情報提供をより良いものにするための新規導入技術の検討などの業務に従事。

リニューアルされた管制室は、写真をみても、とても先進的なイメージです。

向井

グラフィックパネル上には、パトロールカーが今どこを走っているのか、現在位置も表示されるので、現場に急行するパトロールカー(*)の担当者と、より緊密にコミュニケーションをとることができます。 *パトロールカー:正式名称は道路巡回車。車体が黄色に塗装されていることから、「黄パト」とも呼ばれる。

それによって、どんなメリットが生まれますか?

向井

たとえば緊急の事案ですぐ現場に駆け付けないといけない事態が発生した場合、管制員はどの場所のパトロールカーが現場から近いかをグラフィックパネル上で確認しながら判断を下し、指令を出すことができます。それによって現場到着までの時間は短くなり、事案の処理に要する時間を短縮することが可能になります。

「HI-TEX」は単なる機能拡張ではなく、あらゆる面でパワーアップした新世代の交通管制システムだと
分かりました。

向井

交通管制室が全面改修されたことに加えて、お客さまへの情報提供が格段に充実し、防災対策のシステムも導入されるなど、何もかも新しく生まれ変わりました。「HI-TEX」は、規模的にも内容的にも、かつてないほど大規模なリニューアルで誕生した新交通管制システムです。

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