第16話 地勢、環境に対応したトンネル工法を追求
日本最長のめがねトンネル ― 白川トンネル
工事中の白川トンネル
31号神戸山手線の白川南出入路~白川JCT間に位置する延長1.1kmの白川トンネルは、道路線形や事業用地の制約から「めがねトンネル」を採用している。
めがねトンネルとは、断面がめがねに似た形状であることから名付けられたもので、上下線2本のトンネル中央側下部にある側壁を、コンクリート構造物(センターピラー)で共有することにより、2本のトンネルを近接して施工することを可能にしたものである。白川トンネルの、めがねトンネル部分は延長938mと、この形式として日本最長である。
この工事で特記されるのは、①センターピラーを造るためにまず先進導坑を掘り、地山の状況をつかむ情報化施工を行ったこと。②北行きと南行き、どちらを先に掘るかによって、地山の、緩みの荷重がどのように作用するかについて、施工ステップを考慮して検討を行った。さらに、地質的には、どちらを先行させるべきか等についてトンネル委員会の中で議論をした。③また、トンネル中心部には非常に固い花崗岩があり、いっぽう両坑口部分は神戸層群の堆積岩であり、1本のトンネルの中でも場所により掘削の仕方や機械の種別が変わることから、施工計画上、様々な工夫が必要とされたこと等である。
完成後の白川トンネル
トンネル中央付近の六甲花崗岩は、非常に硬いもので、これは、例えばコンクリートよりも硬い岩を掘削して、そのあとにコンクリートを打設していくというような状態であった。しかも、トンネル上部が住宅地であるので、発破工法は使えず、通常のロードヘッダ(自由断面掘削機)では歯が立たない。そこで、「100mm程度の径の先行削孔を行い、そこに鳥のくちばしのような鋼鉄製の破砕機を差し込んで、油圧で広げて、花崗岩に亀裂を入れて掘り進む」といった方法をとった。二方から施工しても、日進40cmということもあった。割岩の区間は、硬岩の区間が100m、そのうち全く亀裂が入っていない高強度区間が60mにも及んでいた。
白川トンネルは、我が国最長のめがねトンネルとして、土木学会関西支部技術賞を受賞した。
住宅密集市街地直下でのNATM施工 ― 神戸長田トンネル
アンブレラ工法概念図
31号神戸線の神戸長田トンネル(高取山~長田出入路)は、高取山付近ではロックボルトによるNATMを、住宅密集地ではアンブレラ工法を用いた都市NATMを採用し、平地部では開削工法を用いるなど、それぞれの区間の地質・環境に応じた工法を駆使して建設された、全長2.1kmの長大トンネルである。
我が国で、これほどの住宅密集地直下で都市NATMによる施工をした例はなく、工事にあたっては、沈下・傾斜を許容範囲に抑えるために、各種の補助工法を用いている。なお、当初はシールド工法を想定していたが、開削による環境破壊や土砂搬出の困難などの問題を考慮して、都市NATMを採用したものである。
沈下抑制に関しては、試行区間での計測結果に基づく情報化施工を行い、アンブレラ工法において鋼管の大口径・長尺化を図るとともに、低圧・低吐出薬液注入工法や、坑内での泥水式掘進機によるパイプルーフ工法等を採用した。
世界初の硬岩自由断面掘削機
(神戸長田トンネル)
いっぽう、区間北側の一部では強固な岩盤のために、日本ではそれまで事例のなかった「硬岩自由断面掘削機(モービルマイナー)」という、世界に1台の機械を米国から取り寄せて世界で初めて実際に使用した。
神戸長田トンネルは、NATM工法の適用範囲を飛躍的に拡大し、沈下抑制等に対する個別技術等の同種工事への発展性・応用性も高いことが評価されて、土木学会技術賞を受賞した。
3 1号神戸山手線の建設で、阪神高速道路は、山岳トンネル、都市NATM、開削トンネルの施工を経験することができ、これは、その後の路線建設のために大いに役立った。
(2014.7.11掲載)