第20話 河道に高速道路を埋設して川を公園に
地域の環境整備と道路・河川整備を一体化
海老江JCTから正蓮寺川トンネルを望む
平成25(2013)年5月25日、阪神高速2号淀川左岸線の1期区間(此花区島屋2丁目~高見1丁目)が開通した。これにより、5号湾岸線と3号神戸線が連結されて、大阪都心北部からの車が環状線を経由することなく湾岸部に直行できるようになり、都心部の渋滞緩和やベイエリアの物流機能の向上に寄与している。
この道路は、淀川に沿って流れていた正蓮寺川の河道を利用して建設されている。
正蓮寺川の環境が悪化して、大量のヘドロが悪臭を放つなどしたため、大阪府・市、阪神高速道路の三者が一体となって、正蓮寺川総合整備事業を推進。その内容は、川を浚渫して、地下に川の水を流す河川ボックスと下水ボックス、さらに阪神高速道路のトンネルを埋設し、その上を土で埋め戻して公園及び歩行者専用道として整備するというものであった。
安全対策が満載の近未来型トンネル
正蓮寺川を浚渫
トンネルの長さは3.6㎞。道路の区間延長4.3㎞の実に8割に及ぶ。したがって、建設工事の非常に多くの部分が、堆積したヘドロを浚渫して川を陸地化する工程に費やされた。その中で、阪神高速ならではのアイデアとチャレンジ精神が発揮されたのが、ヘドロの再利用だった。引き上げたヘドロを、現地のプラントに設置した超高圧フィルタープレスにより脱水固化し、埋め戻す際に土として活用したのである。これだけ大規模な工事でリサイクルを実施した例は、全国でもめずらしく注目を集めた。
正蓮寺川陸地化工事
(平成22年11月撮影)
そして、この長いトンネルの内部にも、阪神高速の工夫や最新技術・設備を駆使した「安全」への備えがいくつも施された。
ひとつは、日本で初めて長大道路トンネルにインバータ制御ジェットファンを全面導入したこと。この34台のジェットファンは、万が一、渋滞時に火災が発生した場合には、火災現場の前後のファンが風向を変化させて、煙を現場付近に留めることができる。長いトンネル内での避難を考えた対策である。さらに、東行き・西行き共にトンネル入口付近が下り坂になっているため、外から流れ込んだ雨水が事故を誘発しないよう、排水性に優れたポーラスコンクリート舗装を入口付近に採用しているが、1万㎡を超える広い範囲に施工したのは、これも日本初のことだ。
トンネル内で減速をうながす
安全対策(シークエンスデザイン)
ユニークな試みとして運転者から好評を博しているのが、トンネル壁面に連続的に描かれている矢印模様(シークエンスデザイン)である。カーブの手前にこの模様を描き、カーブが近づくにつれて矢印の間隔を狭くしてある。運転者は目の錯覚で、走行スピードが上がったように感じて思わず速度を落とすという、ソフト的な安全対策だ。
かつての川底に出現した近未来型のトンネルは、開通して早や1年。このトンネルの上に、沿川・沿道の人達が望んでいた緑の公園の整備が予定されており、早期の完成が待たれるところだ。
(2014.8.8掲載)