ー15号堺線玉出入口ランプで実施した鉄筋コンクリートの取替工事とはどのような工事でしょうか?
- 橋爪
- 玉出入口ランプ橋は、長さ22mの単純鈑桁橋6連で構成される道路橋です。供用開始から50年が経過し、経年劣化や通行車両の大型化にともなう活荷重の増加など複合的な要因によって鉄筋コンクリート床版(RC床版)の損傷が進んでおり、RC床版の取替工事を行うこととしました。
▲ 玉出入口ランプ橋
今回の取替工事では、今後50年、100年という長期にわたって橋梁の健全性を維持するための先端技術であるUFC床版(※)を道路橋としては日本で初めて適用しました。UFC床版は、工事の対象となった6連のうち3連において採用されました。
※ UFC床版
特殊繊維を混合してつくられる超高強度繊維補強コンクリート(UFC)を用いたプレキャスト床版。2011年から阪神高速道路が鹿島建設株式会社と共同で研究に取り組む最新技術である。必要な強度を確保しつつ、床版を薄く、軽くできるため、構造全体の負荷を軽減することができる。
ー玉出入口にUFC床版を適用した理由を教えてください。
- 橋爪
- 玉出入口ランプ橋は、建設から50年が過ぎ、道路橋の設計基準も新しくなり、従来の技術で現行基準をクリアするには床版の厚さを取替前より厚くする必要があり、橋桁の補強などの付帯工事も必要となります。そこで、基礎的な研究開発が完了していたUFC床版を使えないかという話になったのです。
- 佐藤
- 阪神高速道路の道路橋には、RC床版だけでなく、鉄製の鋼床版も多く使われています。もともとUFC床版は、この鋼床版に代わる新設床版として研究開発が始まり、コンクリート系の床版でありながら鋼床版と同等の軽さを実現できることが最大の特徴です。UFC床版を劣化したRC床版の取替にも活用すれば、床版を取替前より薄くすることができ、橋桁補強工事を簡略化できるとともに、UFCの緻密さにより、橋梁の耐久性も飛躍的に向上させることができます。
- 橋爪
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当社が現在進めている高速道路リニューアルプロジェクトでは、ランプ橋だけでなく、高速道路本線の道路橋においても床版取替工事が計画されています。玉出入口ランプ橋の工事は、UFC床版を本線の床版取替に適用することも視野に入れた取り組みでもありました。
ーいちばん困難だった課題は何ですか?
- 佐藤
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UFC床版は、橋梁1連ごとに13枚の床版パネルを並べ、鋼材で橋軸方向に「プレストレス」(※1)をかけて結束した構造になっています。プレストレスをかけるには、一般的には、13枚のパネルのうちの両サイドの2パネルの外側に、鋼材を緊張するためのスペースが必要で、最終的にはそのスペースにもUFCを場所打ち(※2)しなくてはなりません。UFC床版は、品質管理の行き届いた工場で生産されることで優れた強度や耐久性を実現しています。一部のUFCを場所打ちするとなると品質にバラツキが生じ、橋梁全体に影響が及ぶかもしれません。これをいかに解決するかが、設計者にとって悩みのタネでした。
ーそれをどのように解決されたのですか?
- 佐藤
- パネルをひとまとめにプレストレスをかける一般的な方法を改め、13枚を「交差定着パネル」を中心に前後に6枚ずつパネルが並ぶ2つのグループに分け、交差定着パネルから緊張ジャッキでそれぞれにテンションをかけて一体化することにしました。この方法であれば、鋼材を緊張するスペースが床版下面となり、場所打ち部をなくすことができ、橋梁全体の耐久性向上と、場所打ち工が省かれることによる工期短縮が実現します。
▲ 交差定着部の載荷実験
▲ 交差定着部の緊張
- 橋爪
- この方法の場合も、13枚のパネルの両端の「端部パネル」には鋼材を固定するプレートを埋設しなければなりませんが、パネルを2つのグループに分割するので、プレートにかかる荷重は小さくなり、強度の高いUFC床版をもってすれば十分荷重に耐えられます。鉄のように強いUFC床版の特性を積極的に活用した解決策といえます。
▲ 縦締めPC鋼材の配置イメージ
ー他にエポックメークなトピックをあげるとすると?
- 佐藤
- 通常、道路床版の架設工事は、大型クレーン車を使って行います。しかし、玉出入口は道路幅が1車線分しかなく、また本線と一般街路にはさまれた狭隘な施工環境で、大型クレーン車を持ち込んでの工事は制約が多く、困難でした。大型クレーン車に代わる専用架設機を新たに開発し、現場に投入しました。
- 橋爪
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UFC床版の最大の特徴は、従来のRC床版に比べて極めて軽いことです。しかし、重たいクレーンで作業を行うとなると、そのために主桁を補強しなければならず、軽量のUFC床版を適用する意味がなくなります。軽量の専用架設機を開発したことで、わずかな補強だけで作業が可能となり、工事のスピードアップとコスト軽減に繋がりました。
▲ UFC床版運搬概要図
- 佐藤
- 専用架設機は、大型トラックに積んで現場に運び込んだUFC床版のパネルを1枚1枚つかみ、保持した状態で自力走行しながら定位置まで運んで、降ろします。機械の動作やメカニズムは複雑なものではありませんが、玉出入口は、勾配7%の上り坂。傾斜のついた坂道を自走して、所定の位置に正確にパネルを据え付けるのも難しい作業です。専用架設機は、限られたスペースで安全に、かつ効率よく運搬・設置作業を行える、優れた機械です。
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▲ UFC床版搬入荷降し
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▲ UFC床版運搬
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▲ UFC床版架設
-工事にあたって、注意を払ったのはどんなことですか?
- 中山
- 工事現場は近隣に住宅が密集している都市高速の入口です。クルマがビュンビュン走るすぐそばでの作業となるため、まず現場の安全管理には細心の注意を払いました。また、工事でご迷惑をおかけする地元の方に対して、できる限り丁寧に工事内容や工事の必要性を説明し、ご理解を得るよう心掛けました。
- 西原
- 施工管理というと、誰もが工事監督をイメージします。もちろん工事が始まれば工事の安全管理、品質管理に多くの時間を取りますが、それだけではありません。私が工事前にメインで担当したのは、本番工事が始まり、玉出入口が通行止めになることに対して近隣住民のお客様にご理解いただくための地元調整や、通行規制の工事内容・工事期間に関する関係機関(中央省庁・自治体・交通管理者)との調整など、工事に入るための準備を整える仕事。地域の方にご理解をいただき、関係機関の承認とサポートのもと、短期間で安全安心に工事を行なうことは阪神高速の務めであり、それを実現するために施工管理技術者は大きな役割を担っています。
- 中山
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既設のRC床版を撤去し、UFC床版を設置する時は、入口を閉鎖し、通行止めにしなければなりません。その間、お客さまには多大なご不便をおかけすることになります。都市高速道路という公共サービスを提供する事業者の責任として、工事期間の短縮に最善を尽くすことは当然の責務であり、全力を挙げてその実現に邁進しました。工事にあたっては、安全管理を第一に考えながらも、現場の方の体に負担にならない程度に作業時間を延長したり、さらに同時の作業が可能な方法を調整したり、作業を効率化したり、すべての関係者が目に見えないところまで改善したことで、当初の予定から1ヶ月の工期短縮を実現しました。お客さまの利便性を考え、最善を尽くそうという意識を、工事に携わる全員が共有していたからできた工期短縮だったと思います。
ーでは最後にメッセージをお願いします。
- 橋爪
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UFC床版を最初に見た時、既存のRC床版しか知らない私は、その薄さ(150mm)に驚きました。道路床版の厚さに関して、国は設計の指針として最低厚みを定めていますが、UFC床版はその基準を大きく上回るもの。過去に例のない床版をつくろうという阪神高速の意気込みが、そこに現れています。UFC床版だけではありません。阪神高速道路は、ワクにとらわれず、常に上をめざしてチャレンジを続ける会社。UFC床版はまさにそれを体現する技術開発であり、その実用化に向けた取り組みの一翼を担えたのは私の誇りです。
阪神高速道路は、引き続き最善を尽くして大規模な工事を取り組んでいきますので、今後ともよろしくお願いいたします。高速道路リニューアルプロジェクトにご理解・ご協力をお願いいたします。
※本文に記載の内容はインタビュー当時のものです。