大阪都心部高速道路の要とも言える1号環状線。構造物の長寿命化と、より走りやすい道路へのサービス向上を目指し、2020年、2021年の2カ年にわたって行われた「1号環状線リニューアル工事(南行)(北行)」が無事に完了しました。南行は17日間(12号守口線を含む)、北行は10日間の終日通行止めによる大工事でした。
事前調査から、工事内容のポイント、ソフト面での改善、渋滞緩和対策のための広報について、各担当者にインタビューしました。
事前調整
大阪都心部での終日通行止めによる工事ということで、
事前調整はいつ頃から、どのように行いましたか。
渡辺 真介
渡辺
1号環状線は1964(昭和39)年に開通した最初期の路線で、開通から50年以上、2001年と 2002 年に行った前回の大規模補修工事からも約20年が経過しており、舗装や伸縮継手の経年劣化が目立っていました。しかし、1号環状線の1日の利用台数は約25万台にも上り、放射線状に延びる他の路線と接続しているため、通行止めによる交通影響は甚大で、車線規制による大工事が行いづらい路線です。応急的な処置を重ねてきましたが、いよいよ抜本的な修繕が必要となったのです。
そこで、約2年前から、交通管理者や他の道路管理者との調整を始めました。他の路線だと交通影響が道路沿線にとどまりますが、1号環状線の通行止めとなると、大阪市内、府内全域へと影響が及び、協議先も広域にわたります。
交通影響の最小化を目指して、交通管理者である大阪府警とは一般道への交通影響を軽減するための施策、信号の制御変更など、密に調整しました。
日程については、工事期間が長期間でしたので、大阪市やNEXCOといった他の道路管理者と、大阪市内、府内の道路において工事実施時期が重複しないよう調整したり、情報板や横断幕などで互いの工事告知をしたり、協力して事業を進めました。
やはり、交通影響が非常に大きいため、こうした関係各所との協議時間、内容ともに複雑になり、各所と意見交換を何度も重ねて対策を考えていきました。そのあたりが苦労を有したところです。
こうした準備を進め、2020年度は南行(梅田~夕陽丘)とその周辺を、ステップ1として11月10日から20日まで、ステップ2として11月27日までの計17日間、終日通行止めにて工事を行うことになりました。また、2021年度は北行(湊町入口~梅田出口)において11月16日から26日までの10日間での実施が決定しました。
先端技術・UFC床版
2020年度の南行き工事において、守口線の南森町・扇町付近で行った画期的なコンクリート床版の取り替え工事とは、どのような工事ですか。
越野 まやか
先端技術・UFC床版
2020年度の南行き工事において、守口線の南森町・扇町付近で行った画期的なコンクリート床版の取り替え工事とは、どのような工事ですか。
越野
今回の工事では、高速道路の長寿命化を図るため、舗装をまるごと打ち換えるだけでなく、その下のコンクリート床版が損傷していた場合には補修を行いました。コンクリート床版とは、路面の舗装の下にある橋の床板になる部分のことで、コンクリートで造られている鉄筋コンクリート床版(RC床版)が敷かれています。
現場で既設のRC床版を調査し、サンプルを取り出したところ、雨水の浸透などが原因で強度が低下していたり、砂利のようになって劣化していることが確認されました。このままでは舗装や床版自体が陥没するような大きな損傷が起こると考えられ、補修するよりもまるごと取り替えるという抜本的な改修を行うことにしました。
その際、先端技術である「UFC床版」を、阪神高速道路本線では初めて採用しました。これは特殊な繊維を混ぜ、強度を向上させたコンクリート床版です。最大の特徴は、既存のRC床版に比べて非常に軽いことです。強度が高いので厚さを薄くすることができ、床版が軽くなることで橋全体の長寿命化にもつながると期待されます。
当社で開発した専用架設機を用いて、床版パネルを畳のように敷き詰め、PC鋼棒で緊張して一体化させます。今回はプレキャスト壁高欄、プレキャスト中央分離帯を採用することで、端部の現場打ちコンクリートの施工時間が省略でき、耐久性向上・工程短縮を図ることができました。
本線で初めて「UFC床版」を採用したので、図面上ではうまく進められていても不安はありました。実際に現場で施工されたものを見て、ああ、でき上がったんだと感動し、大きな手応えが得られました。
床版取替・専用架設機を開発
工事では、どのようなご苦労がありましたか。
川﨑 雅和
川﨑
まず、17日間という通行止め期間の中で床版をスムーズに取り替えられるよう、約半年前から、車を通行させながらその真下でできる作業を進めました。真下に足場を構築し、床版と桁をつなぐ部分のコンクリートを、ウォータージェットを使って事前撤去しました。これは高水圧でコンクリートを除去する方法です。同時に、新たに設置する床版も半年前から制作を開始しました。
大型クレーン車に代わる軽量な専用架設機を当社で開発し、それを用いて床版の撤去設置を行いました。難易度はかなり高いものでした。限られたスペースで床版パネルを1枚ずつ設置する作業で、ミリ単位の精度が求められ、上げては下ろし、下ろしては上げを繰り返し、微調整の末に設置することで、無事完工することができました。
この工事は社会的影響が非常に大きいため、通行止め期間内に必ず完工できるよう、工程管理には非常に気を遣いました。限られた時間で、事故を起こさず、精度よく施工することが非常に重要です。作業中は当社社員が必ず立ち会い、工程に遅れがないか、施工中のトラブルが起きないか、不安全な行動が見られないか、注意して監督しました。常に安全管理に目配りしながら進捗を見守りました。
阪神高速本線での初の「UFC床版」取り替え工事で、市街地中心部で最新技術を駆使する工事ということで、多くの関係者の方々が見学に来られました。社会的にこれほど高い関心を持たれているのだと身が引き締まる思いでした。無事に完了することができ、ほっとするとともに充実感に包まれています。
走行騒音の低減と排水性舗装
舗装打ち換えやジョイント取替について、どのような技術が用いられ、工夫されたのでしょうか。
吉原 瑞貴
走行騒音の低減と排水性舗装
舗装打ち換えやジョイント取替について、どのような技術が用いられ、工夫されたのでしょうか。
吉原
舗装の損傷やジョイントの段差部は走行時の騒音に繋がり、運転中のお客さまの安全性、快適性への影響や、沿道の皆さまへもご迷惑をおかけしてしまいます。
今回は舗装を全面的に打ち換えましたが、コンクリート床版への雨水の侵入を防ぐため、床版の上面に2層の防水材を敷設しました。排水機能に加えて車の走行音(ロードノイズ)を吸収できる排水性舗装です。これによって路面の平坦性がよみがえるとともに、雨天時でも見やすくなり、走行性をアップさせることができました。
ジョイント取替については、耐久性の高いものに新しく取り替えるだけでなく、ジョイントそのものをなくす床版連結も行いました。常にジョイント据え付け時の段差を限りなくゼロにするべく現場管理を行っていますが、仮組立時の不陸を現場で解消するため、-2mmの据付により不陸を軽減し、走行性の向上に努めました。
施工法も沿線の方々へのご迷惑を最小限に抑えるため、低騒音・低振動のSJS-H工法やIH式舗装撤去工法を採用しました。
2020年に実施した南行の経験を踏まえ、2021年の北行工事で改善した点もあります。一つは、高性能床版防水材の臭気対策です。床版の防水処理を施す際に発生するニオイが沿道の方に不快となるものだったため、北行工事では床版防水材の中に香料を混ぜて少しフルーティーな香りにしました。
また、舗装の合材種別の選定について、現場の排水状態を考慮して合材を選定し、早期ポットホールの発生抑制に努めました。
こうしたことで走行性の向上と、沿道の方への騒音のご迷惑の低減を図ることができました。
路面や分岐の見やすさ、サービス向上のために
道路標識の取替など、ソフト面での改善はどのように行われましたか。
兒玉 崇
兒玉
1号環状線は4車線で交通量も多く、分岐点が左右に連続していきます。お客さまがどこで分岐していいのか、分岐すべきかわからず、誤って手前出口で降りてしまう、いわゆる"誤分岐"が少なくありません。
その対策として、交通量の多い中で必要な情報をいかに目に入りやすくするかを意識しました。まず1つ目として、案内情報量を整理しました。分岐が連続しているので、どうしても情報量が多くなってしまいます。道路上の標識を全面的に見直し、各場所に応じた適材適所で情報量にメリハリをつけました。2つ目は、面的に連続して一定の考え方で情報を提供するようにしました。3つ目は、視覚的、直観的にわかっていただけるよう、路面上にカラー舗装を施すなど色彩を活用した案内を取り入れました。
こうした3つの観点で見直しを実施したことで、走行時の安全性やわかりやすさが大きく向上したと考えています。工事後のお客さまへのアンケートでは、非常に好意的なご意見をいただいています。
工事期間の渋滞緩和対策
工事期間中の通行止めにより、大阪市内を中心に広域での激しい渋滞が予想されていましたが、広報活動はどのような点に力を入れましたか。
中井 万理子
工事期間の渋滞緩和対策
工事期間中の通行止めにより、大阪市内を中心に広域での激しい渋滞が予想されていましたが、広報活動はどのような点に力を入れましたか。
中井
事前の高速道路上の情報板や横断幕をはじめ、新聞やテレビ・ラジオでの広告、インターネットや電車内広告など、さまざまな媒体を用いて広報を行いました。特に、お客さまご自身がスマホなどで気軽にご覧いただける特設サイトに力を入れました。サイト内には、う回乗継に利用できる出入口の組み合わせを検索する機能「う回ルート検索システム」など、お客さまが渋滞を避けてご利用いただける手助けをする機能を盛り込みました。
SNSも活用し、現場写真を掲載しながら、工事状況を毎日発信しました。
2021年北行工事では、工事区間の「湊町~梅田」は大阪市内でも特に交通量が多い「難波」と「梅田」を結ぶ区間だったため、主要駅である梅田駅、なんば駅において、デジタルサイネージや大きな広告を設置するなど、駅広告にも力を入れました。
また、2020年南行工事での状況を踏まえて、2021年北行工事で新たに行ったこともあります。というのは、2020年南行工事初日に「工事開始日を忘れていた」という方も多く、交通影響が最も大きかったのです。そこで2021年北行工事では、前日に「明日から工事が始まる」とお伝えするテレビ・ラジオCMをあらためて放送しました。
さまざまなツールを使いましたが、お客さまによって高速道路の利用目的やルートが異なりますので、どのようなツールを活用し、いかに広報するのか、その検討が悩ましいところでした。また、キービジュアルや横断幕などの限られたスペースで、いかにわかりやすく、的確に、かつ注目していただけるよう、情報を記載できるのか、検討を重ねました。
プレス発表されたときから工事が完了するまで、SNSでさまざまなご意見をいただきました。厳しいお声もあれば、工事中は自動車の利用を控えるよう呼びかけてくださる方もいらっしゃいました。報道についても多くの番組で取り上げられ、注目度の高さを身に沁みて感じました。
皆さまのおかげで、期間中、交通マヒになるような激しい渋滞が起きることもなく、ご迷惑をできる限り抑えられたのではないかと思い、安堵しています。