トップ対談

関西のより良い未来のためにできること
̶私たちのチャレンジ̶

大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーと語る
社会の変化と未来への想い

  • 阪神高速道路株式会社
    代表取締役社長
    吉田光市

    2020年に阪神高速道路株式会社代表取締役社長に就任。

  • 株式会社 steAm
    代表取締役社長
    中島さち子

    大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー、内閣府 STEM Girls Ambassador、東京大学理学部数学科卒業、NY大学芸術学部ITP修士、国際数学オリンピック金メダリストであり、ジャズピアニストでもある。音楽・数学・STEAM教育・メディアアートなど多領域で活動中。

(文中敬称略)

大阪万博から始まった阪神高速の躍進は、今もなお進化し続ける

-まずは吉田社長から阪神高速の歴史・事業についてお聞かせください。

吉田:1962年に前身の阪神高速道路公団として発足し、来年で満60年を迎えます。1970年の大阪万博の年までには、「関西の発展につなげよう」「都市基盤をしっかりつくろう」と8年間で74kmのネットワークをつくり、それが現在の中枢部分になりました。さらに米国に学び、渋滞や事故情報などを提供する道路交通管制システムを日本で初めて導入しました。以来、今日まで、時の課題に対応するため、遮音壁の設置や立体道路の活用など、新しい価値を創造し提供してきたと自負しています。
今では延長約260km、1日約70万台のお客さまにご利用いただいています。関西の皆さまのくらしや経済・社会活動を下支えするインフラ産業として24時間365日休まずに道路サービスを提供し続けることが私たちの使命です。加えて、次の世代により良い資産を引き継ぐためにも、ネットワーク網の整備や、リニューアル事業を推進することで未来のくらしも支えたい。そんな大きな責任を担っていると実感しています。当社は2005年に民営化した際に、経営理念として「先進の道路サービスへ」を掲げました。たった10文字ですが、とても良い言葉だと思っています。徹底したお客さま目線で、常により高みを目指してこれからも挑戦を続けていきます。

24時間365日道路サービスを提供する交通管制室(神戸)

考えさせる教育が未来を創る
問いを創り出せる社会へ

-中島さんのご紹介を兼ねて、提唱されているSTEAM(スティーム)教育とはどういうものか教えていただけますか?

中島:STEAM教育の根源であるSTEM(ステム)教育は、米国が国の競争力を担保し、格差を是正し失業問題に処することが狙いで推進され、オバマ政権時代には国家戦略となりました。パソコンなどがない家庭環境の子どもたちにも21世紀リテラシーを届けるとともに「探究型・プロジェクト型」の学びを推進し、新カリキュラム開発や教員育成などが行われました。背後の思想は「未来を創るのは君たちだ。ゲームをするだけではなく創る側になれ。」というもの。今はインターネットの出現で多くの知識に簡単にアクセスできますが、本来それらを用いて何をするかが重要です。
STEAM教育のAはArtsの頭文字で、リベラルアーツや「世界を見る新しい視点・問いを生み出す」ことを明示するもの。みんなが自由に問いを生み出せる環境をつくりつつ、新しいリテラシーを使い、発想・解決法をある程度形にするまでが大切ですね。

-中島さんが実際に行ったSTEAM教育の事例をご紹介ください。

中島:例えば、2018年には徳島商業高校とカンボジアの高校生たちとともに、カンボジアの渋滞課題に向き合いました(経済産業省「未来の教室」実証)。そこには、数学だけでなく、技術や科学、工学、文化、法律、デザイン、リベラルアーツも含まれていました。カンボジアでは、国の急成長にあわせて車が急増する一方で道路舗装が追いついていません。また、カンボジアと日本の両高校が手分けして実際に動画やデータをとった結果、マナー違反があまりに多いとわかり、マナー教育が必要だと考えました。また、渋滞は数学でモデル化するとゲームのようにシミュレーションできます。ラウンドアバウトでのさまざまな車の動きの様子もわかり、渋滞解消には車間距離をとるべき、などの考察も得られました。これらは、生徒自身がカンボジアの教育庁にも提言しました。

吉田:確かにみんなが利己的になると全体の渋滞に影響する。
そういう現場を実感しながら数学を使ったモデルを生かして分析したりするのは非常に面白いですね。大きな変化の時代にあって、創造性を育むことはとても大切だと思います。

カンボジアの交通状況

社会の変化・ニーズに合った、より質の高いサービスの提供を

-コロナ禍での活動にどのような変化がありましたか?

吉田:1度目の緊急事態宣言下で交通量が最大約3割減少しました。インバウンド関係での観光バスなどの特大車はもちろん減りましたが、日常生活の荷物を運ぶ大型貨物は1割しか減らなかったのです。つまり、移動するヒトは減っても、モノの移動は止まらない。また、世の中の働き方、くらし方が変わってきており、交通渋滞の時間帯や流れにも変化が生じてきていることに気付かされました。その変化をしっかり分析し、お客さまサービスに反映していかないといけません。感染しない対策をとる一方で、仮に感染しても事業は24時間365日止めないように、と私たちの役割の重要性を再度認識しました。

中島:実は、私はコロナ禍の前からZoomなどを活用し、日本の会社を経営しながらNYで研究をするという生活をしていました。大変ではありましたが、世界のどこにいてもみんなが協働できるとわかりました。学びの世界でも、打撃はありますが、リアルとオンラインのハイブリッドにより、場所や年齢を超えた共創の可能性も広がっていると感じています。

吉田:当社も数年前から、工事関係者との書類のやりとりをデジタル化し、現場も楽になりました。2021年度はペーパーレス、脱ハンコをさらに徹底していきます。料金収受においても今はETCが約95%ですが、今後、さらなるキャッシュレス・タッチレス化を目指していきたいと思っています。コロナは手強い相手ですが、感染症が人類の進歩を促してきたという歴史があると思っています。

社員一人ひとりがSDGsを意識し、事業を通じてSDGsに貢献

-阪神高速の事業活動はSDGsに深く関わっていますが、特に注力されているところは?

吉田:インフラ産業としての私たちのミッションとSDGsのベースにある考え方は交わる部分が非常に大きいと感じています。各項目との関わりの濃淡はありますが、それぞれの仕事がSDGsの17項目のどの目標に関係するかを、社員一人ひとりが意識して取り組んでいます。なかでも一番関係が深いのは目標11の「住み続けられるまちづくりを」。先人の努力によって約260kmの道路延長が築かれていますが、まだまだ慢性的な渋滞が発生しており、ミッシングリンクを解消させるため、早期の道路ネットワーク網の整備に尽力しています。また、高速道路もかなり老朽化しているので、昨年11月に、1号環状線の南行を10日間終日通行止めにしてリニューアル工事を行いました。ご不便をおかけしましたが、関西の未来につなげられるように、と今必要な仕事をしました。
さらには道路照明のLED化、森づくりなどを通じて、CO2排出抑制や地球環境保全にも努めています。尼崎の森中央緑地での「阪神高速グループの森」づくりでは、社員が育成・管理活動を行っており、地元を流れる猪名川や武庫川流域で採取した種子から苗木を育て植樹するなど、地域のアイデンティティも大切にしています。これらの取り組みを進めていくことが、SDGsへの貢献にも寄与することになると考えています。

阪神高速グループの森での植樹会(2019年)

大阪・関西万博は、SDGsを達成するためのプラットフォーム

-2025年の大阪・関西万博に向けて、どのような取り組みをしていますか?

吉田:吉田:まず私たちは、会場へのアクセス道路の整備に取り組んでいます。淀川左岸線の2期工事として新大阪から新御堂筋を経て会場まで行くルートをしっかりつくり上げ、できれば自動運転車両が走るなど、将来に向けての一つの形をみせたいですね。また、美装化による景観整備や、夢洲の近くにある天保山大橋・港大橋のライトアップなども行います。高速道路も50年が経つと"水都大阪の風景"そのものに溶け込んでいます。大阪らしさの一部を担っているという使命感で、これからも大阪の原動力になっていきたいです。

中島:私のプロデュースするテーマ「いのちを高める」では、未来のあそび・学び・芸術・スポーツを模索しています。いのちとは生きることそのもの。いのち輝く未来社会とは、多様な一人ひとりが生きる喜びを感じ、未来の希望や価値をつくり出す当事者となる創造性の民主化社会。大変な時代に開催される万博だからこそ、万人や自然や万物のなかにあるいのちの可能性に気づき、みんなが元気になるようなことを仕掛けたい。その象徴としてのパビリオンにすると同時に、開催前から波を起こしていきたいですね。

大阪・関西万博の会場イメージ
提供:2025年日本国際博覧会協会
大阪・関西万博会場へのアクセス道路となる
淀川左岸線2期(建設中)

都市をネットワークでつなげ、いのち輝くまちづくりを

-SDGsのゴールと阪神高速のビジョンのゴールは2030年。
そして、その先の未来社会はどうあってほしいですか?

吉田::「ビジョン2030」のありたい姿に対して、実現をイメージしながら日々邁進していくことが、当社グループのあくなきチャレンジだと思っています。私たちのミッションは「安全・安心・快適な道路サービス」を提供することです。突き詰めると、完全自動運転の世界があるのではと思います。デジタル技術や5Gを活用し、路車間での大量の情報のやりとりを通じて、運転をドライバーの技量に委ねるのではなく、全体最適のなかで制御することで、事故や渋滞のないストレスフリーな環境の提供につながっていきます。
それをイメージ&デザインしながら、万博を一里塚として未来社会に貢献できたら、道路をあずかる者としては嬉しい限りです。

中島:私の場合、一つは「創造性の民主化」です。今までは一部の人が何かをつくり、他の人がそれを受け取る。多くの人が受動的な社会だったけれど、みんなのなかに眠っている創造性のかけらを今、花開かせられる。どの人も研究者やエンジニア、芸術家のように、多様な問いや視点を生み、それを形にもできる。多様な存在が未来の創り手としての喜びや可能性を感じ、交歓し、分断を壊して「協奏する」社会になると良いですね。
「未来の地球学校」という、世界中の幼小中高(特別支援含む)・大学・企業・博物館・官公庁などをつなぎ、共創するSTEAMプロジェクトも構想中です。子どもたちがAIなどを育て学び合い、目が見える人も見えない人も一緒にあそび、経済格差や国、年齢、性別、専門性などの分断を超えて出会い、共創し、生きる。大阪・関西万博では、その波のなかで、自然と人間とAIなどみんなが協奏する社会のきらめきを表現したいです。

吉田:AIや技術の進歩により、失業や格差が拡大するという悲観的なシナリオではなく、大阪・関西万博が目指すいのち輝く未来社会の楽観シナリオへ発展していくことを切に願います。どう未来をデザインするかには、感性や情緒が大切になってきます。日本の風土、自然環境のなかで育まれた厳父たる自然・慈母たる自然に対する畏怖と感謝。こういった日本的情緒が大阪・関西万博を通じて関西から世界に発信され、人類の未来に貢献できたら素晴らしいと思います。
関西の個性的な都市をネットワークとしてつなげるのが当社グループの仕事。多様であるとともに一つの関西のいのちがさらに輝くように挑戦を続けます。