トップ対談

関西のサステナブルなまちづくりのために
DXで未知なる価値のデザインと創造を

関西経済を担う、IT経営者とともに"DXを駆使したまちづくり"を語る。

  • 阪神高速道路株式会社
    代表取締役社長
    吉田光市

    2020年に就任。

  • 株式会社プロアシスト
    代表取締役社長
    生駒京子

    京都市生まれ。大学卒業後、大手ソフトウエア会社勤務、専業主婦を経て、株式会社プロアシストを設立。システム・AI開発などを行っている。
    経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」、内閣府「女性のチャレンジ賞 特別部門賞」などを受賞。現在、関西経済同友会代表幹事、大阪商工会議所一号議員、大阪産業局理事、日本WHO協会理事、生産技術振興協会理事、大阪大学招聘教授などを務める。

(文中敬称略)

※DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタルテクノロジーを駆使して、経営やビジネスプロセスを再構築することを指します。 近年では、経営を取り巻く環境が急激に変化しています。
そこを生き残るためには、デジタルテクノロジーを駆使して、経営の仕組みやビジネスプロセスをつくり替える必要があります。

1970年万博から2025年万博へ。「多様で一つの関西」のさらなる発展に向けて。

-吉田社長から阪神高速の事業とこれまでの歩みについてお願いします。

吉田:阪神高速道路は、現在延長約260km、1日約70万台のお客さまにご利用いただき、阪神間の物流の約5割を担う重要な役割があります。関西のくらしや経済・社会活動を下支えするインフラ企業として、24時間365日休みなく道路サービスを提供し続けることが私たちの使命です。
1962年に前身の公団が発足し、私たちの歴史は、1970年大阪万博に向けた道路整備を通してスタートしました。1号環状線やそこから延びる11号池田線をはじめとする放射路線など阪神高速道路の中枢ネットワークを、万博開催を挟んだ初期の20年でつくり上げました。現在は新路線として、大阪湾岸道路西伸部と淀川左岸線2期・延伸部が事業中です。湾岸線は、阪神港や関西国際空港といった海と空の玄関口をつなぎます。また、淀川左岸線と一昨年の3月に完成した大和川線は、臨海部と京都・奈良など関西内陸部を広域的なネットワークでつなげます。いずれも、「多様で一つの関西」の形成とそのさらなる発展に不可欠な道路です。

-生駒社長からこれまでのご経歴をご紹介ください。

生駒:大学卒業後、一枚の履歴書からある大手ソフトウエア会社に入り、2度の出向なども経験しました。結婚後はしばらく専業主婦をしていたのですが、バブルが崩壊し、自分も何かしなければと思い、産業界に復帰しました。1994年に一人で現在の会社を立ち上げたのは自分の強みである信号処理(※1)から始め、お客さまの研究開発を加速させたかったからです。毎年新卒社員を採ると決め、色々な方々に助けられ、今年の4月で29年目、社員230名の会社になりました。現在私は「阪神高速道路がなければ仕事ができない」ほどのヘビーユーザー。阪神高速道路のおかげで仕事が継続できています。

(※1)コンピューターやマイクロコントローラーを使って画像や音声処理で見えないものを見えるようにする技術。

吉田:いつもご利用ありがとうございます。阪神高速道路が必要不可欠とのお言葉をいただき、これ以上の喜びはありません。ゼロからの会社の立ち上げには、計り知れないご苦労があったかと思います。今日の成長につながったのは、コア技術をお持ちだったこととさまざまな出会いを大切にされてきたことだとお話を伺って思いました。

水都1500年の歴史、その先の未来へ。関西に活気と希望を。

-生駒社長は関西経済同友会でもご活躍されていますが、どのような発信をしていますか?

生駒:関西経済同友会には、10年ほど前にとある会社の社長からのお声がけで入会し、異なる業界の方とのつながりもでき、自分の視野が拡がりました。昨年、代表幹事へのお声がけがあり、周りの応援をいただき決断しました。財界トップとして関西のまちづくりのために、関西の成長を担うインフラ企業とどのように協働できるかを考えています。さらに、最重要課題である万博の計画を、この一年でどれだけ頑張れるかがポイントかと思っています。まずは誘致活動をすることと、さらにコロナもまだ収束していませんから、切磋琢磨して解決策を見出すことも課題です。そして「関西をもっと盛り上げる」べく、良い形でインバウンドを再開させ、DXも普及させて、関西の活気を取り戻す仕掛けづくりをしたいですね。

吉田:確かに、インフラ事業者として責任を持って関西のくらしや経済の発展に貢献しなければと思います。「水都大阪」といわれますが、現在の大川・堂島川につながる「難波之堀江」が5?6世紀に開削されました。我が国最初の土木工事であったといわれています。その後、豊臣秀吉の時代に横堀川をはじめ、現在の大阪市域を縦横に走る掘割が整備されました。瀬戸内海・大阪湾と淀川や大和川を結ぶこれら水路により、大阪は古代には遣隋使などが往来する政治・外交拠点として、近世には「天下の台所」・経済拠点として重要な役割を果たしてきました。約1500年もの間、時代に応じて持続的に発展・成長を続けてきた都市は世界にも例を見ないのではないかと思います。まさにサステナブル都市といえますが、その背景には舟運時代の交通インフラであるこの水路ネットワークの存在があったのだと思います。そして、自動車交通の時代になって、先人が築かれた貴重な水辺空間を、現在、環状線や淀川左岸線、大和川線など私たち阪神高速が活用させていただいており、大きな責任を感じています。先人から引き継いだインフラ資産に、私たちの時代にしっかりと必要な手を加え、次世代の、そして関西のさらなる発展に貢献していきたいと考えています。

生駒:私が好きな中之島の川を阪神高速道路が船の代わりにつないでくださった。走っていて昼も夜もすごくまち並みが綺麗ですね。

吉田:中之島S字橋は、2018年に「日本土木遺産」に認定されましたが、インバウンドのお客さまからも「クールだ」と人気があります。これは、1500年の時代時代に先人が築かれた水辺空間を巧みに活用して整備されたもので、大阪のシビックプライドといえるものだと思っています。

明治に開削された中之島掘割、梅田入堀を活用した線形で万博の数年前に完成。

一人ひとりがSDGsを意識し、サステナブルに夢をつなぐ。

-SDGsのゴール「11.住み続けられるまちづくりを」は、阪神高速グループにとって最優先の取り組みですが、どのように進んでいますか?

吉田:SDGsの17の目標それぞれを、関係の濃淡はありますが、社員一人ひとりが自分の仕事とどう関係しているかを常に意識しています。なかでも関係が深いのが、SDGs目標11の"住み続けられるまちづくりを"です。3つのキーワードがあると考えており、まず1つめは"サステナブル"です。高速道路もかなり老朽化が進んでいるので、新しいネットワークを活用しながら古いネットワークに手を入れることで全体を持続可能に。2つめは"インクルーシブ"。今整備している新しいネットワークで関西の個性的で多様な都市を一つにつなぐことです。3つめは"レジリエント"、すなわち復元力。南海トラフなどの災害が起きた場合を想定し、被害があっても速やかに立ち直って緊急輸送道路として機能するように、さまざまな手立てを考えています。

事業中路線の大阪湾岸道路西伸部(駒栄付近)

加えて、Society 5.0といわれるように、今、世の中は大きな変化のなかにあり、DX、CASE(※2)、MaaS(※3)とモビリティの世界も大きく変わりつつあります。カーボンニュートラルも大きな課題です。インフラ(下部構造)は、経済社会活動(上部構造)の変化に対応し、自らも進化、高度化していかなければならないと考えています。

(※2)Connectedコネクテッド、Autonomous自動運転、Shared&Serviceシェアリング/サービス、Electric電動化の略。4つの技術要素を組み合わせ、安全快適で利便性の高い次世代のモビリティサービスを構築することを狙いとする。

(※3)Mobility as a Serviceの略。地域住民や旅行者のトリップ単位での移動ニーズに対応し、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済などを一括で行うサービス。移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるもの。

生駒:国際金融都市OSAKA、中之島の未来医療国際拠点など、今後の関西には成長のきっかけになるような開発案件がたくさんあります。戻ってくるインバウンドをいかに良い動線で良いところに落とし込むかが重要ですね。例えば、高速道路の上を空飛ぶ車が通る2段構造の世界がもうすぐ実現するのではと期待しています。

吉田:私も、センシングやAI、6Gなどの移動通信システム、DX関連技術の進化により路車間で大量のデータのやりとりが可能になり、高速道路上にデジタル軌道ともいうべきものが形成され、そこを完全自動運転の車が走る。さらにその上空を空飛ぶタクシーやドローンが通るというような妄想話を社内でしていました。ITのプロの生駒さんからお言葉をいただくと心強いです。

人を幸せにするDX戦略で安全・安心・快適な高速道路へ。

-関西経済の未来のために、関西のDX戦略についてはどうお考えですか?

生駒:私はIT屋なのでDXの最先端にいるはず...でも単なるツールであるデジタルだけに頼るのは間違いです。DXの最終目的が「人の幸せ」であることを忘れたくありません。
関西企業はモノづくりで素晴らしいのに、DX戦略では後れをとっているように感じます。万博や国際金融都市構想などで関西は様変わりするはずです。そのためには仕組みをつくっていく必要があり、なかでも物流と道路は重要になってきます。「点と点」といわれる関西を、京都・奈良・大阪・兵庫と阪神高速道路でつなぐ"四都物語"というストーリーをつくり、「あっちまで足をのばそう」とワクワクしながら走れるような仕掛けも考えてみたいですね。

吉田:DXの最終目的が「人の幸せ」であることに全面的に同意します。当社も昨夏にグループのDX戦略をまとめました。DX戦略では、「シームレスなインフラマネジメント」と「安全・安心・快適なモビリティサービス」を、新たな価値を創造する2大コンセプトとして進めています。特に、後者のことを突き詰めていくと、先ほど申し上げた完全自動運転の世界に行きつくように思っています。これが実現すると、例えば一人では運転が困難となった高齢者の移動が格段に拡がるでしょうし、若者も運転から解放され、さまざまなエンタメで移動を楽しむといった世界が見えてきます。まさに、多様な立場の方々の一人ひとりの幸せの向上です。2025年万博が目指す「いのち輝く未来社会」、co-wellbeingにつながるものです。そしてこのことは、多くの関係者の共創のなかで実現していくものだと思います。

生駒:意志ある未来に「こういうものを提供したい」「こうありたい」をまち全体で考えて一緒につくっていけるといいですね。

吉田:時代は今、大きな変化のなかにあります。取り巻く環境の変化や社会の価値観を感性鋭く捉え、ステークホルダーの皆さまの要請や期待にグループ一体となって応えていきたいと思っています。関西経済同友会の今年の一字にも「挑」の漢字が紹介されていましたが、関西に根差した企業として、今後も関西のくらしや経済の発展に貢献するとともに、私たち自身も進化、成長し、次世代の発展につながる価値ある取り組みに挑戦していきます。