さまざまな「つながり」を
大切にしながら、
サステナビリティを実現

阪神高速道路株式会社
代表取締役社長
吉田 光市

公団発足から60年を迎えて

当社は、前身である阪神高速道路公団が1962年に発足して以来、お陰さまで2022年で60年を迎えました。この間、先人たちが約260kmの高速道路ネットワークを整備してきたことに敬意を表するとともに、阪神間の物流の5割を担うという非常に大きな役割を、関係の皆さまの一定の信頼を得て担わせていただいていることに深く感謝いたします。
2022年度は、新型コロナウイルス感染症の影響が未だ続くなか、物流量の継続的な増加が見られました。それにより、経済・社会活動を下支えする道路インフラの重要性を再認識するとともに、エッセンシャルワーカーとして事業継続という責務を全うできたことは、私たちの誇りにもなっています。
一方、課題としてはネットワークの老朽化があります。1970年に開催された大阪万博に向けて1号環状線やそこから延びる11号池田線などの初期ネットワークを整備しましたが、開通から50年以上が経ち、道路の劣化が目立ち始めています。私たちは、関西の発展を下支えするインフラ企業として、今だけではなく次の世代に道路資産を引き継ぐことが何よりも重要だと考えています。そのため、高速道路をご利用の皆さまをはじめ多くの方々のご理解とご協力のもと、リニューアルプロジェクトを推進しています。
また、サステナビリティ課題への対応も私たちが果たすべき責務と考えています。人口減少や少子高齢化、DX(デジタルトランスフォーメーション)、CASE※1、MaaS※2など、社会の上部構造は大きく変化しています。そのため、下部構造を担う私たちインフラ企業も常に進化することが求められます。新しい時代にふさわしい価値を提供していくために、社会課題の変化を鋭敏に捉え、関西の経済・社会活動を下支えするという私たちの基本的な責務を果たしていく方針です。

※1  CASE…Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Service(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字をつなげた造語。
※2  MaaS…Mobility as a Serviceの略。バス、電車、タクシーなどあらゆる公共交通機関を自動運転技術やAIを活用して結びつけ、人々がシームレスに移動できるようになるシステムのこと。

サステナビリティに関する考え方

サステナビリティ課題に取り組むためには、まず「サステナビリティとは何か」を社員一人ひとりが理解する必要があります。私は好きな言葉として、「不揃いで総持ち」という、法隆寺の宮大工の方が言われた言葉をよく紹介しています。約1300年前から今に残る建造物はさまざまな性質を持つ木が支えており、このことから不揃いでありながらも多様な個が一つの大きなものを支えていることを表した言葉となっています。これは、まさにダイバーシティ&インクルージョンをはじめとするサステナビリティのあり方に通じるものがあると考えています。この言葉は、社員からも印象に残ったという声を聞くことができ、サステナビリティの組織文化への浸透の一助にもなっていると感じています。
現在、サステナビリティ課題はカーボンニュートラルをはじめとする地球環境問題、経済・地域格差や人口減少、少子高齢化などが挙げられますが、これらは、誰かひとりの努力によって簡単に解決できるものではありません。しかしながら、SDGs(持続可能な開発目標)の理念にもあるように、私たち一人ひとりが自分にできることを考え行動することで、より大きな課題の解決につながるのではないかと考えています。サステナビリティの専門家である河口眞理子氏は「来所を知る」ということを言われています。この言葉を私なりに解釈すると、人類が生まれた起源や、地球という星に生まれたということに思いを馳せること、また地球という空間だけではなく、時間を超え、人や自然、社会とのさまざまなつながりがあるからこそ今の自分があり、そのことに感謝の気持ちをもって社会に貢献することと理解しました。サステナビリティを推進するにあたり、こうした「つながり」を意識しそのなかで一人ひとりが置かれた立場で為すべきことを為すことが、一隅を照らす光となります。その光が集まるとやがては地球全体を照らす光となり、地球規模の課題解決につながるものと考えています。

阪神高速グループが目指すもの

阪神高速グループでは、2016年に「CSR基本方針」を策定し、CSR経営を推進してきました。一方で、「環境」「社会」「経済」の三面でバランスを取るというサステナビリティの考えをこれまで以上に企業活動へ反映するため、新たに「サステナビリティ基本方針」と「CSR活動指針」を策定しました。これは従来の考え方と大きく異なるものではなく、「三方よし」という日本に根付いた組織風土に「次世代よし」を加えてより進化させ、積極的に社会に新しい価値を提供し、次の世代に確実に引き継いでいこうという基本姿勢を示したものです。
また、阪神高速グループビジョン2030の「6つのありたい姿」を起点に4つのサステナビリティ重要課題を特定しました。
1つ目は「地球環境の保全」です。カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現に向けて、温室効果ガス排出量の削減に取り組みます。2つ目は、SDGs目標11にも大きく関係する「サステナブルなまちづくり」です。3つのキーワード「サステナブル」「インクルーシブ」「レジリエント」を軸に取り組む方針であり、「サステナブル」は冒頭で述べたリニューアルプロジェクトの推進、「インクルーシブ」は大阪・神戸・京都といった関西の多様な都市を一つにつなぐ新たな道路ネットワークの構築、「レジリエント」では災害で被害を受けても速やかに立ち直り、緊急輸送道路として機能する災害に強い高速道路づくりを進めていきます。3つ目は「事業活動を支える経営基盤の強化」として、主に働き方改革やダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいきます。最後に、4つ目は「業務の変革や新たな価値の創造」として、主にDXの推進を掲げています。2025年は、未来社会の実験場と位置付けられる大阪・関西万博が開催される年であり、私たちがモビリティの世界で提供できる新たな価値について取り組むことで、万博にも貢献し、次世代にレガシーを残していきたいと思っています。
さらに今般、当社グループを取り巻く経営環境の変化を踏まえ、中期経営計画(2023~2025)を策定しました。本計画は、ビジョン2030の「6つのありたい姿」の実現に向けた計画であるとともに、2025年の大阪・関西万博に貢献し未来社会を描くためのアクションプランです。グループ一丸となってこの取り組みを推し進めることが、サステナビリティ重要課題の解決に資するものと考えています。
阪神高速グループ理念「先進の道路サービスへ」の「へ」は、あくなき挑戦を意味するものだと思っています。さまざまな「つながり」を大切にしながら、社会の一員としてサステナビリティの実現に挑戦していく所存ですので、ステークホルダーの皆さまには今後とも変わらぬご支援のほど、よろしくお願いいたします。