転機は、何の前触れもなく、不意に訪れる。国内で着実にキャリアを積み重ねた岡本に、ケニア赴任が打診されされることとなる。
ある日突然、本社から「ちょっと来てくれ」と呼び出され、「ケニアはどうだ」といわれたのを覚えています。前ぶれらしきものは一切なく、まさに青天の霹靂。予想もしなかった展開に、言葉を失いました(笑)。
ないわけでは、ありませんでした。入社2年目か3年目の頃、国際協力の仕事で海外に派遣されていた先輩が帰国し、その先輩から現地での状況をうかがって、『海外の仕事も面白そうだな』と思ったことがありました。でも、その後仕事が忙しくなり、結婚して子どももできて、公私ともに多忙な時間を過ごす中で、海外の夢は次第に頭から遠ざかっていきました。ケニア行きを打診されたのは、まさにそんな中でのことでした。
実は、それが私にも謎なんです(笑)。ケニアにはJICA(独立行政法人国際協力機構)の「長期専門家*」として派遣されるのですが、私の場合、「15年以上の実務経験」と「一定水準の語学力」という2つの条件がありました。1つ目の条件はクリアできても、語学はまったくダメでした。また当社が海外に人材を送り出す場合、従来は語学力が第一条件で、実務経験がそれより優先されることはなかったのですが、私の場合は逆に実務経験しか条件に適うものがありませんでした。にもかかわらず海外で働くチャンスを与えてくれる。そこが当社の面白いところかもしれません(笑)。
*長期専門家
JICAが国際協力などで海外に派遣する専門家のうち、派遣期間が1年以上のものを指す。
ケニア行きを打診された時、私が『自分は英語ができないから』と話すと、会社は『任せてくれ』と思いもよらない言葉を返してきました。『会社が全面的にバックアップするから』というのです。それから3ヶ月間、私は英会話学校に通って英語を1から猛勉強しました。費用は、全額会社負担。それもアフターワークではなく、朝の9時から夕方の5時まで一日みっちり。その間の仕事は英会話能力を習得するだけでした。ケニア赴任を数ヶ月後に控え、英会話の勉強だけに専念する時間を会社が用意してくれたのです。そして英会話学校のプログラムが終了した3ヶ月後の英語の学力テストで、条件を満たすスコアをマーク。晴れて2つの条件をクリアすることができました。
会社は他にもいろんな機会を提供してくれました。例えば英語の学力テストをクリアしても、実際に使ってみないと話せるようにはなりません。そこで道路の保守点検の技術を学ぶためにはるばるモロッコから来日していたグループに合流し、1ヶ月間一緒にトレーニングを受ける中で英語によるコミュニケーションの機会もつくってくれました。その後はJICAが行なう海外赴任予定者を対象にした3週間の研修プログラムに参加。国際協力活動の考え方や実務について学んだり、準備で大忙しの8ヶ月でした。