特集 ケニアの大地で見つけた新たな可能性(3/5)

ケニアの経済と暮らしを支える
大動脈を守れ。

イギリス連邦に属したケニア共和国*は、ここ数年めざましい発展を遂げ、今や東アフリカでは最大級の経済規模を誇る。それを支えているのが、経済活動や日常の生活に欠かせない幹線道路だ。2016年12月にケニアに赴任した岡本は、そんなケニアの将来にも大きな影響を与える幹線道路を中心に道路維持管理のためのプロジェクトでチーフアドバイザを務める。

*ケニア共和国
東アフリカに位置する共和制国家。1963年に、イギリスから独立を果たした(現在も、イギリス連邦に所属)。首都は、ナイロビ。通信・金融・交通の中心都市でもある。またモンバサは東アフリカ最大の港で、内陸部への重要な入り口となっている。ケニアの主要産業は、GDPのおよそ3割を占める農業。労働力の約7割が、農業に従事する。一方では工業化も進み、特に製造業の発展が著しい。

プロジェクトが、そもそも何を目的としているのか、教えてください。

岡本

ここ数年来、経済成長著しいケニアでは幹線道路の建設が急ピッチで進んでいますが、完成した道路を良好な状態で使い続ける維持管理の体制はまだまだ脆弱で、自然災害などで道路が損傷するたびにケニア国道公社などの道路関連機関が直接補修工事を行なっていました。しかし場当たり的な対応では、道路を末永く将来にわたって維持することはできません。そこで道路関連機関に道路維持管理の考え方や手法を持ち込み、メンテナンス工事を民間の工事会社に「委託化」を加速することでより信頼性の高い、合理的な維持管理体制を築き上げようというのが、このプロジェクトのそもそもの狙いなんです*

*プロジェクト概要
正式名称は、「道路メンテナンス業務の外部委託化に関する監理能力強化プロジェクト」。ケニアにとって重要なインフラである道路を長期間維持するために、ケニア都市道路公社など公的機関の民間工事会社に対する監理能力を向上させるのが目的。2010年5月から2019年11月まで、足かけ10年におよぶ長期プロジェクト。3年を一区切りとして、3つの段階(フェーズ)からなる。
すでに「フェーズ1(2010~2013)」と「フェーズ2(2013~2016)」は終了。現在「フェーズ3(2016〜2019)」が進行中である。

*監理
使う側の立場に立ち、品質や工程、コストなどの面から工事が適正に行なわれているかどうかを監督すること。

道路工事の様子

道路工事の様子

阪神高速道路(株)は、プロジェクトにどのように関わっているのですか?

岡本

道路維持管理で豊富な経験を持つ当社は、プロジェクトがスタートした当初(2010年)からこれに関わり、JICAと協力しながら、3つの「フェーズ」に1人ずつ、計3人の長期専門家をプロジェクトのチーフアドバイザとして現地に派遣しています。その中で私は3代目。「フェーズ3」のチーフアドバイザを務めています。

「フェーズ3」では、どのような活動を行っているのですか?

岡本

「フェーズ1」「フェーズ2」の活動成果をふまえて、4つのテーマを設定しています。まず1つ目は、工事を民間の工事会社に発注する際に必要な入札予定価格を割り出す積算の技術を向上させること。適正な価格を算出する能力を高めることで、ムダなコストを省き、公平な積算ができます。2つ目は、「フェーズ2」で導入と試行を行なった「性能規定型契約(PBC)*」とよばれる契約手法をより多くの工事に適用し、経験値を積み重ねること。そして3つ目が、PBCを国の公的機関や民間工事会社に普及浸透させる上で必要なトレーニングを行い、ケニアの技術者の能力向上です。

*性能規定型契約(PBC/Performance Based Contract))
補修工事などを行なう際、工事を発注する側が条件を設定し、その条件を満たしているかどうかで支払額を決定する契約方式。

現地事務所でのPBC実施状況のヒアリング

現地事務所でのPBC実施状況のヒアリング

4つ目のテーマは?

岡本

ケニアの道は、凸凹が多く、クルマが速く走れなかったり、事故を起こす原因ともなっています。そこで日本の大学が開発した道路の平たん性をチェックする装置(DRIMS*)を新たに導入し、それを使って凸凹のある箇所をスピーディーに探し出し、効率的にメンテナンスを行なう技術の習得を4つ目のテーマに掲げています。こうした取り組みを通じて現地の道路関係機関が民間工事会社を適切に監理し、幹線道路を損傷や劣化から守り、長期にわたって良好な状態に保つ体制をつくりあげるのが、プロジェクトの目的なのです。

「フェーズ3」4つのテーマ
1 道路公社の積算能力の向上
2 PBCによる維持管理能力の向上
3 PBCに関する訓練能力の向上(民間企業への訓練含む)
4 道路維持管理におけるDRIMSの活用促進

*簡易道路平たん性計測器
(DRIMS/Dynamic Response Intelligent Monitoring System)

走行車両の鉛直加速度応答を利用して、簡易で定量的かつ高精度に路面の状態を診断・評価する移動路面モニタリングシステム。東京大学がプロトタイプを開発。その後改良が重ねられ、国内の複数の大学や道路会社が連携して開発、国際展開が進められている。

「フェーズ3」のチーフアドバイザの役割について、教えてください。

岡本

「フェーズ3」は、プロジェクトの最終段階。チーフアドバイザは、“まとめ役”としてこれまでとは違った役割を負っていると感じています。それは単に、足かけ10年におよぶ長期プロジェクトを完結させるという意味ではありません。「フェーズ1」や「フェーズ2」も含め、これまで私たちが伝えてきた道路維持管理の考え方や手法、技術、ノウハウを道路関係機関や民間工事会社の間にしっかり根付かせ、私たちが日本に帰国しても現地の人たちが当事者意識を持って自律的に道路維持管理にあたる持続可能な体制を整えるという本来の目的を達成すること。その意味で責任はとてつもなく大きいと思っています。

道路の平たん性をチェックしている様子

道路の平たん性をチェックしている様子

特集 世界で活躍する阪神高速
「ケニアの大地で見つけた新たな可能性」
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