今回の座談会を企画したのは、ともすれば分かりづらい施設系技術職の仕事内容を、幅広く理解していただくことが狙いです。そこで、次はみなさんが今どんな仕事に従事し、どんな役割を担っておられるのかを、次に伺いたいと思います。
阪神高速には、渋滞情報を表示する道路情報板から多彩な情報を提供するETC2.0のシステム、夜間の道路照明に至るまで、さまざまな電気・通信設備が設置され、安全で快適なサービスの実現に一役買っています。そんな電気・通信設備を、どの場所に、どういう構成で、どれくらいの費用を投じて整備すればいいのか、おおもとになる基準をつくるのが、私のメインの仕事です。また今までにない新しい設備や現行設備の機能増強にむけた仕様の検討、またそこで必要とされる技術を市場調査で探り、メーカーの力を借りながら開発する仕事もしています。
施設や設備を長期にわたって維持するには、一定の基準以上の品質であることが大切です。多くのお客さまが使う高速道路の管理者としての社会的責任を考えた時、基準づくりはとても重要。技術に対する知識や経験、理解がないと合理的な基準はつくれないので、技術職が基準づくりを担うのは重要なことだと思います。
基準をつくると、それを実際に運用して業務にあたるさまざまな部署から、『ここは、どうすればいいのか?』といった運用に関する質問が多く寄せられます。そんな時は、全社業務に少なからず影響を与える重要な意思決定にかかわる仕事の重みというものを感じます。それが仕事を支えているモチベーションですね。
道路情報板やETC2.0のシステムは、お客さまに阪神高速を快適にご利用いただくためのもの。社内に限らず、お客さまへの影響も少なくないと思いますが。
はい。お客さまから寄せられるご意見やご要望に触れると、自分の業務がいかに多くの方の日常と深く密接につながっているかを再認識させられ、ひとつひとつの仕事に緊張感を持って、襟元を正しながら取り組まなければいけないと感じます。
畑本さんは、いかがですか?
今は、着々と建設工事が進む「淀川左岸線2期事業」で、トンネル防災設備や換気設備、路面排水設備などの機械設備の設計を行なっています。設計といっても、私たち技術職が直接手を動かして計算をしたり、図面を描いたりするわけではありません。設計の実務は外部の設計事務所や建設コンサルタント会社に委託し、私たちは計算や図面作成を行なう上で必要とされる仕様、要求性能、設置スペース、構造物にかかる荷重、メンテナンス性などの条件を決定し、提示するのがメインの業務です。
そこは仕事内容として、いちばん誤解されやすいところですね。
はい。「設計」と聞くと、多くの人は図面を描いて試作品をつくり、実験で評価などをするメーカーの設計をイメージしますが、阪神高速道路で行なう設計は、図面づくりよりもさらに上流、いわばコンセプトメークの仕事といえます。また機械設備は道路本体の土木工事や建築工事、電気・通信設備工事と密接に関わりがあり、それを担当する部署、ラインの要望を聞いたり、意見調整をはかったりすることも大切な仕事です。
阪神高速道路は、設計や工事の実務を外部の専門会社に委託する発注者として事業を進めています。その発注を指揮監督するのが、技術者の役目。
設計が完了すれば、次に工事を建設会社やメーカーに発注します。そこでベースとなるのは、私たちが外部の専門家の力を借りて完成させた設計図面です。もし設計に不具合があったり、実現不可能な設計であれば、現場で工事にあたる関係者に大きな迷惑をかけることになります。それだけに細部にいたるまで、慎重の上にも慎重を期して仕事を進めるように心がけています。
高井さんは、今、どのような仕事をされているのですか?
料金所やパーキングエリア(以下、「PA」)をはじめ、さまざまな施設の維持管理にあたる部署で、企画、調整、積算基準の策定にあたっています。今取り組んでいるのは、(距離料金以降に伴い不要となった)集約料金所を撤去した跡地を利用した新しいPAの整備です。料金所撤去とPA整備をどのような手順で進めていくかの工程検討、工事費用を算出する積算方法の検討など、事業の全体調整にあたるのが私の仕事です。社内の関係部署との調整が完了して初めて、設計や工事を外部に発注することができます。いわば最初にボールを蹴るキックオフの役目を担う仕事です。
やりがいや達成感を感じるのは、どんな時ですか?
料金所を撤去し、新しいPAを作るとなれば、社内のさまざまな部署に影響がおよびます。営業部門など施設を運用する部署とうまく意思疎通ができ、スムーズに事業が進んだ時は大きな達成感があります。また新型コロナウイルスの感染防止や働き方改革をめざして、工事現場でもさまざまな取り組みが始まっています。そのための費用をどう取り扱えばいいのか、積算基準の改定にむけた議論も始めています。阪神高速の施設整備を通じて社会全体をより良いものにする活動の一翼を担えるのは、大きな喜びです。
集約料金所の跡地にPAを新設するのは、2016年11月の尼崎集約料金所が初めてでした。過去に前例がないだけに、高架上の集約料金所の撤去手順や積算方法等、社内外の調整は難しくなかったですか?
料金所の撤去後、早期にお客さまにご通行いただくため、土木構造物の高架を傷めることなく、効率的にその上の料金所のみを撤去することが求められました。検討段階から過去の土木工事や細かな手順の確認を土木担当者と調整し、工事着手前は受注者と手順の見直し等、互いにとってベストな着地点を試行錯誤しました。入社後いろいろな部署を経験する中で、企画や調整の仕事の面白味、醍醐味というものを理解するようになりました。関係部署とうまく調整ができた時の喜びや達成感を何度も味わい、そこにやりがいを見つけることもできました。部署や受発注者の垣根を越えて真摯に耳を傾けることをこれからも大切にしていきたいと思っています。
先ほどは現在仕事内容について心がけていること等について伺いましたが、普段の仕事で感じる楽しさ、充実感について教えてください。
阪神高速では、通行車両のスムーズな流れを維持するために、大阪と神戸の2カ所に「交通管制センター」を置き、交通流監視カメラや500m間隔で設置された車両検知器からリアルタイムの道路情報を入手して、クルマの流れをコントロールしています。今そうしたシステムの性能向上にむけ、新たな設備の仕様検討や技術開発をメーカーと共同で進めているところです。仮に今後それが正式採用となり、総延長258.1kmに達する阪神高速全線に展開され、5年後10年後の交通管制システムの標準装備になっていくと想像するとワクワクします。
同感ですね。今トンネル設備や換気設備の設計に取り組んでいますが、建設工事が始まれば頭の中でイメージしたものがカタチになり、人びとの生活を支えるインフラとしていつまでもあり続ける。設備はいずれ老朽化し、リプレース(取替・交換)されるでしょうが、施設系技術者が議論し、たどり着いた設計思想やコンセプトは受け継がれていきます。そこに阪神高速でしか味わうことのできない仕事の喜びがあると思っています。
私は先ほども少し触れましたが、関係部署と意思疎通がうまく運び、連携がスムーズにできた時に、いちばんの喜びを感じます。新しい事業に取り組むにあたって企画、調整をする時は、過去事例がそのまま適用できることはほぼなく、常に新しい考え方を取り入れることが大切です。外部の設計コンサルタントや関係部署と協力してゴールまでたどり着けた時の喜びは、何物にも代えられません。独りよがりなものをつくっても、誰も喜んではくれません。多くの人の力をひとつの目的のために結集し、実現にむけて挑戦するところに、この仕事のいちばんのやりがいがあると思っています。