ではここで少し話題を変えて、キャリアアップについて伺いたいと思います。さまざまな業務を通じて得た知識や経験が、今の仕事にどのように生かされているのでしょう。
電気・通信設備の設置基準などをつくる仕事を担当していますが、設備ひとつ取り替えるにしても、将来のメンテナンス性を考え、どうすれば保守点検がしやすいかを考慮して設計や工事にあたる必要があります。ひとつひとつの業務は、それぞれ個別に独立してあるのではなく、すべてはつながっている。その意味で、ジョブローテーションで幅広い業務を経験できたことは、キャリアを重ねていく中で、とても大切なことだったと気付かされます。
私の場合は、2020年3月に全線開通した大和川線の設計と工事監督に携わった時の経験が、淀川左岸線の設計という今の仕事にダイレクトに役立っています。
畑本 啓吾(機械系)
畑本さんは、グループ会社への出向も経験されていますね。
はい。入社4~5年目 に、設備の維持補修を専門に手がけるグループ会社(阪神高速技術(株))で仕事をしました。保守点検の現場に立ち会う機会が頻繁にあって、そこで見たこと、聞いたことがしっかりと記憶の中に刻み込まれています。それが設備設計をする上で大いに役立っているのは、いうまでもありません。
具体的には、どういう点が役立っていますか?
トンネル設備や換気設備を設計する場合、いかにメンテナンスしやすいものにするかは、かなり優先順位の高いテーマです。グループ会社に出向し、メンテナンス作業の実際の様子を自分の目でしっかりと確認できたことで、どういう点に配慮した設計が必要かを、知識ではなく肌で分かるようになりました。
当社の機械系社員は、入社4~5年目くらいのタイミングでグループ会社に出向するケースが多くなっています。維持補修の最前線を経験することは、大切なことですね。高井さんは、いかがですか?
設計事務所と連携しながら設計を行なった時は、とても多くのことを学びました。高速道路の高架の上に新たにパーキングエリアを建設する設計でしたが、設計基準に荷重制限があり、基準を満たすには単純に施設をコンパクト化すれば無難に済ませられるのですが、その設計事務所はベースとなるコンセプトに徹底してこだわり、使用する材料の軽量化や基礎構造の見直し等、思いもよらないアイデアを次々と提案して来られました。一切の妥協を排し、当初定めたコンセプトをあくまで貫こうとするその姿勢に強い刺激を受け、自分を戒めるきっかけにしました。
立場や役割が変われば、たとえ同じ仕事であっても見え方は違ってきます。同じ仕事を別の立ち位置から少し距離を置いて眺めてみることで、仕事に対する向き合い方が変わることもあるでしょう。その意味でジョブローテーションがみなさんのキャリアアップにつながっている面が多分にあることが分かりました。
人の成長は、職場の風土やまわりの人たちの存在も、大きく関わっています。そこでみなさんの成長にきっかけを与えた上司の言葉などがあれば、教えてほしいのですが。今度は、高井さんからよろしいですか。
入社5年目か、6年目の時、上司に『仕事では、いつも“なぜ”の精神を持って取り組むように』と教えられたのを覚えています。先輩や上司にいわれたことを鵜呑みにするのではなく、なぜ今この作業をしているのか、なぜこの対策が必要なのかを自分自身に問いかけることで仕事をより深く理解でき、課題も見えてくる。そういう意味だと、理解しています。
私も実は入社2年目か3年目の時に、上司との面談で『いつも、なぜなのかを考えて』とアドバイスをもらった記憶があります。また、新人の頃に指導役の先輩から言われたのは、『自分の答えをしっかり持つように』ということです。たとえその答えが間違っていたとしても、自分なりの意見を持って仕事と向き合うことが大事だという意味でしょう。今でも、そのことを常に意識しながら仕事をしています。
私が覚えているのは、『社会インフラを支える一人として、どうあるべきかを考えながら行動しなさい』という言葉です。阪神高速道路は、公共のために事業を進める会社ですから、コストを抑え、冒険をせず、無難に仕事をまとめることも大事ですが、お客さまの安全安心を考えた時、必要なところに必要なスペックのものを、コストをかけてでもやらなければならない時もある。上司は、そのことを伝えたかったのだと思います。とても印象に残る言葉でした。
みなさんはそれぞれにキャリアを積まれ、今では後輩や新人を指導する立場にあるかと思いますが、若手に何かアドバイスしたいことはありますか?
井奈波さんの言葉に添えていえば、こだわるべきところには徹底してこだわって仕事をしてほしいですね。大事なところ、肝心要の部分にはしっかり時間をかけて考え抜き、そうでないところは効率を重視する。濃淡を付け、優先順位を間違えないことが、良い仕事をする上で大事なことだと思います。