阪神高速道路株式会社では、小学校の総合学習の時間などに、社員が講師として学校などに出向き事業を行う「出前講座」を行っています。「地震・防災」や「環境への取り組み」、「高速道路の役割」などを主なテーマに、子どもたちの学習を支援・協力しようという活動です。出前講座の担当部署である、技術部の山岸達也さんに聞きました。
「出前講座」は平成17年から始まり、平成18年度は7校、平成19年度は2校、平成20年度6校で実施しました(平成20年度のうち1校は高校。その他はすべて小学校)。学校に出向いて授業を行うほか、社会見学の一環として当社が管理する「震災資料保管庫(神戸市東灘区)」で、震災で被災した阪神高速の構造物を見学してもらったり、建設中の道路の現場見学会なども実施しています。
学校から直接、当社に出前講座の依頼をいただくほか、朝日小学生新聞とタイアップして出前講座の募集記事を掲載しているため、新聞社経由で応募をいただく場合もあります。テーマや内容は、学校側と調整しながら行っています。
窓口を担当しているのは私の所属する技術部ですが、実際に授業の講師を担当するのは、自主的にスタッフ登録をした社員です。現在、約20名が登録しており、部署も年代もさまざまなスタッフが活動しています。
写真上:パワーポイントやDVD、構造物の模型なども使って、わかりやすく授業します。
写真:下紙を折って強い橋を作って、おもりが何個のせられるかを競いながら、補強した橋の強さを実感してもらう実験。
授業テーマとしては、「阪神大震災を経験していない子供たちに、地震・防災について教えてほしい」という学校側からの要望が多く、これが大きなテーマのひとつになっています。そのプログラムの一例を、小学校の6年生を対象に行った、「高速道路の役割と地震防災」と題した授業を例に紹介します。
まず、「高速道路の役割」を知ってもらうため、高速道路と一般道との違い(信号がない、交差点がない、お金がかかるなど。大阪市内から関西国際空港までの所要時間が、一般道と比べて52分短縮できるなど)をクイズ形式で学んでもらいます。
次に、「地震のメカニズム」を解説した後、液状化実験を行います。これは、砂と水を入れた水槽を地震にみたてた振動器で揺らし、液状化を体験しようというもの。砂に埋め込んでいたマンホールにみたてたフィルムケースがにゅっと浮き上がると、「わーっ」と歓声が上がります。同時に、杭にみたてた竹串を橋脚の模型の底面にとりつけると、地震が起きても倒れないという結果をみてもらい、「阪神高速の橋脚にも杭がついていて、地震への対策をとっているので大丈夫ですよ」という説明をさせてもらっています。
もうひとつの授業テーマが、「環境への取り組み」です。2004年度には「環境保全活動・環境学習推進法」が施行され、積極的に環境教育を推進していこうという社会の動きもあります。「環境」は今後、ニーズの増えてくるテーマでしょうね。
小学5年生向けの「阪神高速の環境への取り組み」と題したある出前講座では、主に、道路騒音について学んでもらいました。阪神高速が採用している、低騒音舗装(排水性舗装)が音を吸収するしくみなどについてクイズ形式で解説しました。ちなみにこの舗装は、材料のすきまを大きくすることによって音を吸収させる舗装です。このように、わかりやすく阪神高速の環境への取り組みを紹介し、理解してもらっています。
「震災資料保管庫」で、分厚い鉄がぐにゃりと曲がった橋脚など、被災した構造物を見学する子供たち。見学後には、実際に被災した構造物を見て、「こんなに大変な被害だったというのを知って、びっくりした」などと感想が寄せられます。
地震による被害、対策の大切さを実感してもらう液状化現象の実験。
講師スタッフは、授業の内容によって担当部署に情報提供を求めたり、内容を確認したりと、常に勉強しながら講座に望んでいます。新しいプログラムを考えたり、授業の仕方も工夫するよう心がけています。
20年度には、「渋滞発生のメカニズム」を学んでもらうプログラムを新しくつくりました。今後は、「ETC」「ITS」に関するプログラムや、中・高校生を対象としたプログラムを作ることによって、学校側のニーズにできる限り柔軟に対応できればと思っています。
子供たちにとって、こうした出前講座は国語でも算数でもない、社会を知り、視野を広げてもらう学びです。そうした学習のお手伝いがもっとできればと考えています。
一方、技術部では、子供だけでなく、一般の方々を対象に、11月18日の「土木の日」にちなんだ現場見学会も開催しています。平成19年度は淀川左岸線の建設現場を、平成20年度は神戸山手線・南伸部の建設現場見学会を行いました。
いずれもトンネル形式で工事を進めている現場で、外からは様子を見ることはできません。神戸山手線の見学会では、トンネル内部を歩いていただいた後、建設途中段階のトンネルの真上をJR山陽本線の電車が走るという状況もみていただきました。参加者からは、「貴重な経験ができた」「早くいい道路を安全につくってください」といった感想やご意見もいただきました。
これからも、出前講座や現場見学会などを通じて子供さんはもちろん、広くみなさまに、阪神高速の事業をご理解いただけるよう、努力していきたいと思っています。
出典:阪神ハイウェイ175号