1995年1月17日早朝に発生した兵庫県南部地震は、阪神地方を中心に甚大な被害を与えました。阪神高速道路においても例外ではなく、特に3号神戸線では5箇所で落橋に至るなど大きな被害を受けました。長大橋も同様に被害を受け、東神戸大橋の魚崎浜側端橋脚では、橋脚上に設置されていた全ての支承が損傷しました。
同じ被害を二度と出さないよう、阪神高速道路では震災後、長大橋の耐震補強に取り組んでいます。長大橋は通常の高架橋とは異なり、構造が様々であるため、阪神高速では個々の長大橋ごとに耐震補強検討を行っています。その中でも、天保山大橋・東神戸大橋・港大橋などは特に、構造が大きく複雑であるため、いかにして、経済的に必要な耐震性能を確保するのかが重要な課題となります。
写真:支承の損傷事例
港大橋では、床組(車両が走行するデッキ部分)を支える金属支承を、すべり免震支承に取り替えて地震力を低減し、「主構」とよばれる主要部材(橋の骨格となるトラス部材)に損傷が生じないようにしています。
また、二次部材(主要部材を補助する部材)である対傾構や下横構にある程度の損傷を許容し、地震エネルギーを吸収させて、主要部材を健全な状態に保つ「損傷制御構造」を採用しています。
具体的には、対傾構や下横構を座屈(両端から強い圧縮力を受けてひしゃげるように破壊すること)から防ぎ、地震エネルギーを吸収する「座屈拘束ブレース」に取り替え、主構に損傷が生じないようにする制震技術を取り入れています。
写真:港大橋
写真:座屈拘束ブレースの設置状況
(港大橋)
図:座屈拘束ブレースの設置位置
(港大橋)
天保山大橋では、塔下部の斜材と水平ばりが交わる接合部(ガセット部)に「せん断パネルダンパー」を設置して地震力を低減しています。せん断パネルダンパーとは、低降伏点鋼(降伏点が一定で想定する荷重で確実に塑性化するじん性に富む鋼材)で構成される鋼板がせん断方向に変形し、塑性化することで地震エネルギーを吸収する制震装置です。
塔斜材が座屈(両端から強い圧縮力を受けてひしゃげるように破壊すること)するのを防止し、地震力を低減することで主桁の支承が損傷することも防いでいます。
写真:天保山大橋
図:ガセット部せん断パネルダンパーの設置位置・構造(天保山大橋)
東神戸大橋では、オールフリーの支持形式(塔や橋脚の支承で主桁を支えず、ケーブルで主桁を吊り下げる形式)を採用しており、大地震に対して過大な主桁の変位が生じる恐れがあります。
そこで、過大な主桁の変位を抑制するために、縦置きサンドイッチ型積層ゴムダンパーとケーブルを組み合わせた制震装置を設置しました。「縦置きサンドイッチ型積層ゴムダンパー」とは、積層ゴム(ゴムと鋼板を積層状に重ね上げた装置)を縦方向に配置し、サンドイッチ型とすることで積層ゴムが大地震に対してスムーズに変形することを特徴とする制震装置です。
写真:東神戸大橋
図:縦置きサンドイッチ型積層ゴムダンパーと弾性拘束ケーブルの設置位置(東神戸大橋)
図:縦置きサンドイッチ型積層ゴムダンパーと弾性拘束ケーブルの変形(東神戸大橋)
担当者からひと言 飛ヶ谷さん
東神戸大橋の縦置きサンドイッチ型積層ゴムダンパーは、4 つのゴム体を組合せて1 つのダンパーとする構造となっています。この構造が要求性能を満たすためには、4 つのゴム体が1 つのダンパーシステムとして円滑に挙動する必要があります。この構造が橋梁のダンパーとして採用されるのは東神戸大橋が初めてでした。
また、座屈拘束ブレースは新設の橋梁に採用された事例はあるものの、取替として使用された事例がなく、さらに、港大橋という特徴的な橋梁での実施、実績のないホイストクレーンの使用など、何から何まで初めて尽くしの工事でした。