橋梁 | 鋼橋 |
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免震構造を確保かつコスト縮減を実現した
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反重力すべり支承は大規模地震発生時の橋桁の変位制御、伸縮装置の維持管理性の向上およびコスト縮減を目的に開発された新しい支承です。
兵庫県南部地震以降、橋梁の支承には免震ゴム支承が積極的に採用されてきました。免震ゴム支承は大規模地震時に大きく変形することで、地震エネルギーを吸収することができる一方、橋桁の変位が大きくなってしまいます。橋桁の変位が大きい場合、隣接する橋桁どうしの衝突を避けるために橋桁間を大きくあけておく必要が生じます。橋桁間には、伸縮装置を設置するのですが、橋桁間が大きいと、この装置も大きなものとなるほか、損傷頻度も高くなると考えられます。
反重力すべり支承は図に示すように、3つの平面を有する台形であり、普段は水平面で鉛直力を支持しています。一方、大規模地震発生時には、斜面部に衝突し、さらに、斜面をすべり上がろうとします。この時、すべり上がろうとする橋桁は重力の作用により、元の位置に戻ろうとします。この支承は、重力の作用を利用して、橋桁の変位を制御することができるため、橋桁間を小さくすることができます。
反重力すべり支承の構造
兵庫県南部地震以降、高架橋の地震に対する構造として、免震構造や多径間連続構造が多用されています。平成20年1月に供用を開始した阪神高速8号京都線(上鳥羽~第二京阪道路)においても、同様の構造の採用により、耐震安全性を確保しているところです。
免震構造は、地震時に支承部が大きく変形し、エネルギーを吸収することにより、高い安全を確保することが可能となります。しかしながら、その大きな変位を許容するために、維持管理上の弱点である伸縮装置が肥大化する傾向にあり、ライフサイクルコスト上の問題が潜在しています。また多径間連続構造は、地震時の変位を拘束させることにより地震時の安全性を確保していますが、常時に作用する温度の影響等を不静定力として構造内に内蔵するため、多径間化を図ることが困難です。そこで、現在建設事業中の8号京都線斜久世橋区間(鴨川東~上鳥羽)の設計にあたり、地震時安定性を確保しつつ限定的な地震時変位にとどめ、さらに温度の影響など、常時作用に対しても有利な新しい支承形式を検討したものです。
本稿で提案する反重力すべり支承(以下、UPSS:Uplifting Sliding Shoeという)を図-1に示します。本支承は、すべり支承を水平と斜めに配置した複合支承です。常時においては、水平部のすべり支承で鉛直力を支持し、さらに平坦面をすべらせるアイソレーション機構を具備することで、橋脚に摩擦力以外の力を作用させません。また、地震時慣性力に対しては斜めに配置したすべり支承が機能し、橋梁全体にひずみエネルギーとして地震時エネルギーを分散させるとともに、斜めすべり面による抵抗により多点固定構造を擬似的に構築し、桁の水平変位を制御することができます。さらに、反重力方向に桁を変位させることにより、地震時エネルギーを位置エネルギーに一時的に変換し、橋脚に作用する水平力についても制御することが期待されます。なお常時においては、温度変化による拘束力が生じないよう、斜めすべり支承部には遊間が設けられています。
このような構造は、多点構造でもなく、また免震構造や分散構造でもない、双方の利点を有する新しいジャンルの構造として位置付けることができるでしょう。このようなジャンルのイメージを図-2に示します。応答変位を比較的自由に設定することができることが特徴であり、地震時に対する設計の自由度は極めて大きく、多点固定橋から長周期免震橋まで本支承の斜め勾配を変化させることにより、任意に容易に設定できることが期待されます。さらに、経済性の観点からは汎用製品であるBPB支承を組み合わせた複合構造であることから、コストの低減が見込まれます。
※阪神高速8号京都線は平成31年4月1日(月)からNEXCO西日本と京都市に移管されました。
1)足立幸郎,加藤祥久,篠原聖二:反重力すべり支承にかかる解析モデルの構築について,阪神高速道路第41回技術研究発表会論文集,2009.5 |