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建設技術

イメージ 国内外でも先進的な取り組み、客観的・工学的観点からトンネル壁面デザインを利用した交通安全対策

その他

国内外でも先進的な取り組み、
客観的・工学的観点から
トンネル壁面デザインを利用した交通安全対策

建設場所:8号京都線

キーワード トンネル、 交通安全対策、 速度抑制、 デザイン、 阪神高速京都線8号線

写真:8号京都線稲荷山トンネル 8号京都線稲荷山トンネル(鴨川東~山科)の山科側は、本線部トンネルを出て約140mで交差点に接続する構造となっており、トンネル内を高速走行した車両が十分に減速できない可能性があることが危惧されていました。一般的な交通安全対策として、道路標識や路面標示による注意喚起などがありますが、これら文字や図形による情報は多すぎるとかえって紛らわしさが増大し、情報を受け取る運転者に負担を強いることも考えられます。そこで、既に標識や路面標示等で交通安全対策が行われている場所でも、さらなる速度抑制効果を期待できるデザインを開発しました。

図1:阪神高速8号京都線路線図

図3:イメージ図

このデザインは、トンネル壁面に適用した新しい交通安全対策です。トンネル内に施した一連の模様の出現間隔を調整することにより、心理的に運転者に速度抑制を促す効果を発揮するものであり、運転者への効果が高く、他の道路空間での応用展開が期待されるものです。

適用した8号京都線・稲荷山トンネル山科出口では平成22年12月現在、交通事故がなく推移するなど、低コストで交通安全性の高いサービスの提供が可能となりました。

図2:稲荷山トンネル山科出口部

工法、工程

◆技術的な特徴1(新しい技術)

a)トンネル壁面を交通安全に利用 ~経験的デザインから工学的デザインへ~
交通安全という重要な課題に対して、トンネル側面に、従来のような経験的ではなく、客観的・工学的な観点から壁面デザインの設計手法を構築したことは、国内外的にも先駆的な取り組みです。

トンネル側面を対象とした壁面デザインの従来からの取り組みとしては、視線誘導としての水平ライン、近年では快適性を提供するようなデザインなどがありますが、これらは主観的・経験的な観点からデザインされてきました。

運転時の視環境の連続的な変化(シークエンス)が運転者に及ぼす影響が認識され始めている中、運転者に減速を促す壁面デザイン設計に必要な諸条件を定量的に分析した上で、実際に設置できたことは、新しい技術です。

図4:模様が連続的に変化する壁面デザインの設置状況

b)トンネル側面に新たな技術を付加
従来からトンネル側面の内装工は、視線誘導性、物体認知性、照明効果の向上を図る目的として設置されるものと考えられてきました。このような状況の中、本技術のように壁面にデザインを施すことで速度抑制としての性能をトンネル側面に新たに付加できたことは、空間の有効な活用であるとともに、新たな技術の展開が大いに期待できます。また、施工は従来と同様の塗装等のみで済み、新たなコストを必要としないものでありコストパフォーマンスに優れた技術でもあります。

※濃い色の模様が、速度抑制効果の期待できる模様です。

図5:トンネル壁面デザインの状況(運転者にとっては、左から右へ移っていく)
◆技術的な特徴2(デザインの検討)

a)安全性に優れたトンネル壁面デザインの効果
従来の交通安全施設にはない、以下のような新たな安全性を導入できる汎用性のある技術です。

  1. 速度超過者には速度抑制が働くように、逆に安全走行者には快適性が感じられるように配慮されたデザインです。
  2. 運転者の感覚に働きかけることによって速度抑制を図るデザインであることから、運転行動過程において文字情報等の認識時間等が不要です。
  3. 徐々に模様が展開することでブレーキによらず、アクセルオフという緩やかな速度抑制を図ることができます。

これらの技術的内容について以降に記述します。

b)速度抑制効果の高い模様や色について
速度抑制という目的に合致し、併せて危険性(距離感覚のつかみづらさや運転のしにくさなど)の少ない模様として、矢印模様、縦模様の連続が有効であることを、CGを用いたアンケート分析より導きだしています。

また、色については、色の違いが運転行為に及ぼす影響はないことをCGアンケート分析より明らかにした上で、トンネル内の照明効率が下がらないような範囲で、交通安全色である緑を採用しています。

c)速度抑制効果と模様の出現頻度との関係
図6:模様の設置間隔の検討図模様と模様の通過間隔の違いが運転者の感覚に及ぼす影響について、快適性と危険性の感覚にトレードオフの関係があることに着目し、動画CGアンケート分析により、模様と模様の通過間隔の指標となる模様の出現頻度0.272秒(3.6Hz)が、快適性と危険性が交差することを導き出しました。この値を距離換算すると模様間隔が設計速度60km/hの場合は4.5m、40km/hの場合は3.0mになります。これより、速度超過者には模様の出現頻度が高くなり、危険性を高く感じ、速度を抑制して走行することとなります。

さらに、単一模様の連続は運転者の飽きや慣れを起こすことがわかり、そのために単一模様の連続するデザインの使用できる時間(長さ)を8.8秒としています。

そして、これらの条件を設計速度に対応させ、各模様の間隔及び単一模様の連続的な長さを考慮の上、段階的に速度抑制効果が期待できる、つまり運転者になんとなく速くなってきたような感覚を与えるデザインを、約500mの壁面の塗装により提供しています。

主観的な設計になりがちな交通安全対策の分野において、工学的な検討を積み重ねています。

図7:壁面デザインの設計図(模式図)

d)目的に応じたデザインが展開可能
今回の対象は、直線のトンネル出口部での速度抑制を目的としていましたが、カーブ区間での速度抑制、登り坂での速度増加、あるいはサグ部での速度安定化など、目的にあったデザインを展開することが可能であり、応用性が期待できます。また、トンネル側面以外であっても応用性が十分に期待できます。たとえば遮音壁におけるペイントによるデザインの設置、反射板や路面標示のライン等の設置間隔、あるいは植樹やポール・柱類の設置間隔など、運転者の視環境に影響するものであれば、様々な物に対して、デザインを応用することが可能です。

e)安価で交通安全対策が可能であり経済的
壁面へのペイント工事であり、低コストで対策を行うことができ、非常に経済的にも優れた技術です。

※阪神高速8号京都線は平成31年4月1日(月)からNEXCO西日本と京都市に移管されました。

イメージ 国内外でも先進的な取り組み、客観的・工学的観点からトンネル壁面デザインを利用した交通安全対策

ひと言担当者からひと言 岩里さん

本技術のデザインは連続的な緑の縦縞によって構成されていますが、よく見ると、何かに見えませんか??
実は竹林をイメージしているのです。
本技術を8号京都線で採用するにあたって、歴史都市京都の地域特性も考慮し、京都らしさを追求したデザインを心掛けました。京都の竹林をイメージした緑色主体のデザインを展開することにより、竹林の中を走行するような空間を創出し、安心・快適な走行環境を提供することを目指しました。
また本技術の先進性や、汎用性が認められ、また質の高いサインとしても数々の賞の受賞や実用新案を取得、今後の発展が望まれています。
本技術の適用箇所はトンネル壁面だけでなく、運転者の視界に入る個所であれば、遮音壁や路面標示などでも適用することができ、デザインについてもそれぞれの地域性を考慮したデザインにできることから、様々な場面での応用が考えられます。

受賞等:第43回SDA賞、H20土木学会関西支部技術賞、実用新案登録第3131789号(U3131789)、新聞掲載、テレビ放送
 
関連資料 1)第61回 土木学会全国大会【学会論文/2006,9】
ページ数:2,
主な内容:壁面の模様に関する基礎アンケート

2)第62回 土木学会全国大会【学会論文/2007,9】
ページ数:2,
主な内容:デザインの検討

3)第64回 土木学会全国大会【学会論文/2009,9】
ページ数:2,
主な内容:効果把握実験
備考:優秀講演者賞受賞

4)第27回 日本道路会議【学会論文/2007,11】
ページ数:2,
主な内容:デザインの検討

5)第13回地下空間シンポジウム【学会論文/2008,1】
ページ数:8,
主な内容:壁面の模様に関する基礎アンケート/デザインの検討

6平成19年度 建設コンサルタント 業務・研究発表会【学会論文/)2007,7】
ページ数:4,
主な内容:壁面の模様に関する基礎アンケート/デザインの検討

7)EASTS2009(国際学会)【学会論文/2009,11】
ページ数:16,
主な内容:壁面の模様に関する基礎アンケート/デザインの検討/効果把握実験

8)技報第24号【論文集/2007】
ページ数:8,
主な内容:壁面の模様に関する基礎アンケート/デザインの検討

9)土木学会論文集【論文集/2008】
ページ数:13,
主な内容:壁面の模様に関する基礎アンケート/デザインの検討/効果把握実験

10)第43回SDA賞【その他/2009】
ページ数:2
備考:入選

11)土木学会関西支部 技術賞【その他/2008】
ページ数:5,
主な内容:壁面の模様に関する基礎アンケート/デザインの検討/効果把握実験
備考:技術賞受賞

12)建設技術展ポスター出展【その他/2009】
ページ数:1

13)京都新聞掲載【その他/2008,5】
ページ数:1

14)テレビ放映(日本テレビ:世界一受けたい授業)【映像/2010,7】

15)実用新案登録(実用新案登録第3131789号)【権利関係/2007,2】
備考:権利者:阪神高速道路(株)・いであ(株)