近年、阪神高速では、数多くの鋼床版で疲労き裂が確認されています。なかでも図-1の左図に示すUリブ鋼床版のデッキプレートを貫通するき裂は、従来の鋼床版下面からの点検では発見することができません。また、鋼床版上面からは舗装を除去しなければ発見することができません。
図-1:鋼床版の疲労き裂が発生している部位
そこで、阪神高速では、図-2に示すように鋼床版舗装上面からの赤外線検査、鋼床版舗装上面からの渦流探傷検査、鋼床版下面からのフェイズドアレイ超音波探傷検査の3つの検査を組み合わせることによって全鋼床版橋梁を対象に損傷箇所を順次絞り込み、特定していく効率的かつ高精度なき裂検出技術を開発しました。なお、これらの検査技術は、実橋梁で生じたデッキプレート貫通き裂に対して、検出可能であることを確認しています。
図-2:複合的検査フロー
(共同開発:阪神高速技術(株)、(株)パスコ、日本電測機(株)、(株)日本工業試験所)
(特許出願:特願2008-310332)
ここからは、鋼床版舗装上面からの赤外線検査、鋼床版舗装上面からの渦流探傷検査、鋼床版下面からのフェイズドアレイ超音波探傷検査の各個別技術について、紹介します。
図-3に示す赤外線検査は、舗装上面から高性能赤外線カメラを用いて一般的な規制速度(例えば、80km/時)で走行しながら熱動画像の撮影を行い、鋼材や水、空気などの熱容量の相違による放射熱量の相違、つまり温度差により異状を検出する技術です。
図-3は実橋梁を撮影した映像で、○で囲ったUリブは他のUリブと比較して低温であり、Uリブ内に滞水していることを示しています。
鋼床版デッキプレートの貫通き裂が発生した場合、このようにUリブ内に滞水する事例があることに着目したものです。
Uリブ内の滞水以外にも鋼床版き裂が発生している個所は、舗装の損傷が多く発生している傾向にあることから、舗装の損傷に着目し、赤外線検査にて確認することも考えられます。
図-3:舗装面上の高速走行による赤外線検査
図-4に示す渦流探傷検査は、従来の渦流探傷技術を改良し、非磁性体であるアスファルト舗装の上から、鋼床版デッキプレートのき裂を検出するものです。
デッキプレート貫通き裂を有する橋梁で検査したところ、図-4に示すような欠陥信号が検出されることを確認しています。
図-4:舗装面上からの渦流探傷検査
図-5に示すフェイズドアレイ超音波探傷検査は、探触子に連続状に並べた各振動子を電子的に制御し、超音波を放射状に自由な角度に放出させることが可能で、従来の超音波探傷と比較して、塗膜除去を必要とせず、高精度かつ短時間に検査が可能な検査技術です。
実橋梁で発生したデッキプレート貫通き裂形状とフェイズドアレイ超音波探傷で推定されたものとを比較・検証し、高精度でき裂を検出できることを確認しています。
図-5:鋼床版裏面からのフェイズドアレイ超音波探傷検査
担当者からひと言 杉山裕樹さん