阪神高速道路では、軽量で施工工期が短いなどの利点を生かし、数多くの鋼床版を湾岸線や神戸線などで採用しています。
これらの鋼床版において、詳細な点検を進めた結果、図-1に示すような部位に金属疲労が原因と思われるひび割れを確認しています。ひび割れの数は、図-1のひび割れ図における、(4)縦リブと横リブ交差部が最も多くなっており、また、ひび割れは、大型車交通量の多い湾岸線、神戸線で多く発見されています。これらひび割れ損傷については、引き続き点検・補修計画に従った対処を実施してまいります。
現在、確認しているひび割れは、幅が0.1mm以下、長さは大半が数mmから10cm程度です。ひび割れの中で、放置すると進展し車両走行に影響を与える可能性があると判断したものについては、緊急補修を実施し、その他のひび割れは、計画的に補修を実施しており、構造物の耐久性や走行安全性に与える影響は低く、お客様のご利用に影響はありません。
●鋼床版
橋桁に支えられた路面の下にある床構造物を床版といい、鋼床版とは、鋼製の部材から成る床版のことです。デッキプレート(鋼製の板)を鋼製の部材で補強した構造です。
●金属疲労
金属疲労とは、金属にある大きさ以上の繰返しの力が作用すると、金属にき裂が発生する現象です。鋼製材料の金属疲労の発生しやすさは、負荷される力の3乗に比例するといわれています。仮に、鋼床版上を通行する車の重量が3倍になると、その影響度は27倍になる計算です。
(1)点検の強化および詳細点検の実施
目視などによる従来の点検に加えて、問題が発生しやすい構造に対しては詳細点検をすべての鋼床版橋に対して完了しています。また、非破壊試験(外見では確認することができないひび割れなどを発見する試験)による新しい点検手法などについても試行中です。
(発見しにくい鋼床版の疲労き裂を効率的かつ高精度で確認できる複合的検査手法)
(2)緊急補修の実施
計画的に補修を行う一方、ひび割れの中でも、放置すると進展し車両の走行に影響を与えることが懸念されるものについては、高速道路を規制して鋼床版の上面から鋼板のあて板や、Uリブの取替えなどの緊急補修を実施しています。
(3)新しい補強技術の検討と対策工事の展開
鋼床版のひび割れに対して、より効果的な補修・補強法を開発するため、様々な検討を行っています。
ホームページによる新技術の公募など、各方面への技術情報を収集するとともに、実橋を再現した試験体による金属疲労に関する実験、実橋を対象にした試験的な補修・補強法および予防保全対策の実施などの取り組みにより、適切な補修・補強法および予防保全の技術開発の推進を図っていきます。
(4)総合的な道路管理への取組み
今後、阪神高速道路の供用年数の増加に伴い、建設時には想定し得なかった金属疲労のような損傷は不可避と考えられ、先進の道路サービスに向けて、点検・補修など総合的な道路管理に取り組んでまいります。一方で、金属疲労の発生に大きく影響を及ぼす重量違反車両についても取締りを強化し、その削減に努めています。
現在取組んでいる対策工は、次の工法です。
(1)コンクリート系舗装の適用による鋼床版の補強工法
鋼床版の疲労損傷の抑制・防止を目的に、鋼床版上の舗装の一部を強度の高いセメント系の材料に置きかえ、金属に作用する力を低減することを検討しています(図-2)。
そのセメント系材料は、2種類を対象にしています。ひとつめは、モルタルにゴムラテックスを添加した、強度と変形追随性の高いゴムラテックスモルタル舗装です。ふたつめは、SFRC(Steel Fiber Reinforced Concrete)舗装で、コンクリートにスチールファイバー(鋼製の釘状の補強材)を添加し強度と耐久性を確保しています。
5号湾岸線で、平成19年6月にゴムラテックス舗装、平成21年3月および4月にSFRC舗装の試験施工を実施しました(写真-1)。
(2)高速道路の規制を必要としない鋼床版下面からの補修・補強工法
前述した(1)コンクリート系舗装による工事は、高速道路の規制が前提となりますが、規制を必要としない鋼床版下面からの補修・補強工法の開発も行っています。これは、例えば、鋼板などの補強材を鋼床版の下面から取り付ける工法です(図-3)。 開発の進捗にあわせて、順次、補修・補強を実施していく予定です。
(3)その他の工法
主桁の垂直補剛材上端部に発生するき裂に対しては、図-4に示すような半円工を設け、活荷重によるき裂発生部位の発生応力の低減を図っています。また、開断面リブを有した鋼床版に対しては、図-5に示すようなL型鋼によるあて板補強を実施しています。
図-4:主桁垂直補剛材上端部の半円孔
図-5:開断面リブ鋼床版のL型鋼補強
担当者からひと言 杉山裕樹さん
・鋼床版疲労損傷は、多岐にわたり各損傷に対応する補修・補強方法が必要です。
また、補強することによって、他の部位に新たな応力集中点が発生するおそれもあるため、
非常に難しい対応が必要となってきます。
・構造物の老朽化や車両の大型化の進展などにより、
今後、ますます鋼床版の疲労損傷の発生が予想されますので、本技術が活用され、
橋梁の安全性の向上に貢献できれば幸いです。
・より効果的かつ効率的な補修・補強方法を目指し、
研究・開発を推進したいと考えています。