コンクリートのひび割れには、いくつかの原因がある。しかし昭和57(1982)年に、阪神高速が公表したASRによるひび割れは、従来のものとは全く異なっていた。
それゆえにこの発表は大きな注目を集め、『日本で最初にアルカリ骨材反応(ASR)が出現したのは、阪神高速道路においてである』という認識が広まったのだが、実際は日本国内の様々な場所で、この劣化現象が見られるようになりつつあったのである。
例をあげて説明しましょう。
一般的なもので代表的なのが「沈下ひび割れ」「乾燥収縮ひび割れ」「温度ひび割れ」などです。
「沈下ひび割れ」というのは、コンクリートを打設する際に締固めが緩いと、硬化する過程でコンクリートが沈み、それが鉄筋などで妨げられる場合に起こるひび割れのことです。
「乾燥収縮ひび割れ」は、水を取り込んだセメントが硬化していく過程で、水分の蒸発に伴い収縮することによって起こるひび割れのことです。
最後に「温度ひび割れ」。コンクリートは打設後、セメントの水和反応に伴う発熱によって温度が上昇して膨張し、その後放熱しながら収縮・硬化していくのですが、例えば、打設したコンクリートがその下の硬化したコンクリートによって拘束を受けた場合に自由に変形できず、ひび割れを起こすことがあります。これを「温度ひび割れ」と呼んでいます。
「沈下ひび割れ」は、打設してからごく初期に発生し、「温度ひび割れ」は1か月後くらいまで、「乾燥収縮ひび割れ」は数カ月後くらいに現れるひび割れです。
コンクリートという材料自体が、ある程度ひび割れが出るという性質を持っているため、これらの症状の発生を完全にゼロにすることはできないのですが、極力出ないようにすることは可能です。
阪神高速でも許容範囲の中に収めるため、様々な工夫がなされてきました。
ところが、ASRは、これらのひび割れとは全く違うものでした。
まず、ひび割れが化学反応に伴う膨張が原因となって発生すること、そして施工後数年から10年という、年単位の時間を経た後に現れるものであるということ。さらにひび割れの状態が、普通は起こり得ないような、ものすごい幅のひび割れもあったということ。つまり、技術者達がこれまでに経験したことのない、想定外の現象とも言えるのが、このASRによるひび割れだったわけです。