議論を重ねる中で様々な案が出された。大別すると4つ。
1番目のヒンジ部の下に柱を立てる(下部工)案は、下が交差点であるため柱が交通の障害になってしまうということで、早い段階で見送られた。
2番目の斜張橋とは、橋脚または橋台に高い塔を立て、この塔から橋桁をワイヤーロープで斜めに吊り下げる形式のもの。
確かに沈下は止まるが、工事規模が大掛かりで費用も相当かかる。そして何よりの問題は、現場が町中で塔を立てる場所がないということだった。
3番目の連結部をつないで固定するという方法は、費用や工事規模の点から見れば、かなり魅力的な提案だった。しかし、本来コンクリートの伸縮に対応するために設けたヒンジ部を固定してしまってよいものかどうか、別の影響によって状態が悪化するのではないかということが懸念された。
そこで最も有力な案として浮上したのが、4番目の下弦ケーブル案。
これは鈴木自身が考えていたものと同じだった。ところが、この案も当初はなかなか受け入れられなかった。
じつはそこには、技術者ならではのプライドが関わっていたのである。
「下弦ケーブル案」とは、高速道路の主桁の下(沈下部分の真下)にストラット部材を設けて、橋脚と橋脚の間にケーブルを張るというものです。ケーブルに緊張を加えることによりストラットを介して上向きの力が働き、たわみは回復します。
この案の長所はたくさんあります。まず基本的な構造形を変更させないで済むということ。次に補強後に万一垂れ下がりが進行した場合、ケーブルの緊張を強めることによって再度調整できるということ。最後に工事期間が短くて済み、完成後も第三者に与える影響が少なくて済むということ。特に3つ目は、主要交差点の真上に橋があるという喜連瓜破の状況にとって、非常に有効な要素だと我々は考えました。
そこが技術者のこだわりなんですわ(笑)。せっかく美しい橋のフォルムが、ケーブルという余計なものをつけることで美しくなくなってしまうことが許せない、という思いがあるんですね。
私も設計者のハシクレ。その気持ちはよくわかります。けれども純粋に機能を追求していけば、どうしても自分の案に行き着くんですよ。こうなったら徹底的に頑張るしかない。「他にもっといい案があるなら出してください」という気持ちで開き直りました(笑)。
いや実際にね、一般の人よりも技術者の方が、外観に対するこだわりは強いと思いますよ。鈴木の方がどちらかというと異端児に近い(笑)。私も最初は「ちょっとなあ」と思いましたからね。それに当時下弦ケーブルは、新設の橋に使われる例はあっても、既存の橋の補修には使われていませんでした。実績のない中で新しいことに挑戦するのは、どの世界でも風当たりは強いものです。そういう逆風の中で鍛えられるのもまた、阪神高速の社風だと思います。
確かにそうですね。みなさんそれぞれに積み上げてきたデータや経験のもとに仕事をしているので、そこをもう一度ひっくり返すには、こちらもしっかりとした理論の裏付けが必要です。何度も話し合いを重ねる中で、私自身の考えも練り上げられて、より強固になったと言えるかもしれません。それに、いったん納得すれば同じ目標に向かって全力を尽くすのも技術者の性(さが)。