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赤い橋を包み込む、巨大な「ロ」の字のワケ

点検台車のリニューアルが正式決定し、設計作業がスタートした。主要なスペックを決める基本設計の担当は、中野順一(2000年入社)。基本設計をベースに、黒嵜寿行(1996年入社)が詳細設計を行なう。ともに機械技術者としてキャリアを積んだ2人だったが、これほど大規模な設備設計の仕事は初めての経験だった。

プロジェクトでの役割を教えてください
中野

私は主に基本設計を担当しました。荷重条件や環境条件、施工条件などを考慮しながら全体の構成や点検台車を動かすメカニズム、設備機器の配置などを考えるのが仕事です。

黒嵜

詳細設計が私の担当でした。基本設計をベースに詳細設計・製作・施工を受注した企業(重工メーカー)とともに、工場で実際に製作するための図面をとりまとめるのが仕事です。

林

私は当時、耐震に関する業務に携わっていた関係から、詳細設計の段階で相談があり、情報提供やアドバイスにあたりました。港大橋は、橋自体に耐震設計が施されていて、Dr.RINGにも地震時の揺れによって本体が損傷しないように検討が加えられることになりました。そこで専門の立場から、必要なサポートを行ったというわけです。

設計にあたって、最も大きなテーマは何だったのですか
中野

初代のモデルは、港大橋の最上部に備え付けられた台車が前後に自走して点検したい箇所に接近できるのが特徴ですが、点検できる範囲は限られていました。

例えば車両が走行する路面を支える、「道路床版」とよばれる箇所の下面は近接点検がほとんど不可能で、点検を担当する土木職からは「今まで点検不可能だった箇所にも接近して点検作業ができるようにしてほしい」という要望が多く寄せられました。

点検範囲をいかに広げられるか。それが最大のテーマであり、それを実現できる構造を白紙の状態から考えました。
黒嵜

具体的には、上部台車の下に新たに「下面足場」とよばれるステージを設け、それを左右のシャフトに付いた昇降台車で抱えるようにして持ち上げることで上部台車と連結し、一体となって橋梁を移動するようにしました。下面足場は、中央径間用が1台、両サイド用が2台の計3台。
社内で名称を募集した結果、シャフトを通じて上部台車と連結した時にリング状になることから、Dr.RINGという名称になりました。

斬新でユニークな構造ですね
中野

ただし上部台車と下面足場だけだと橋脚付近をカバーできません。そこで初代の点検台車にも設置されていた「下部台車」に改良を加える形で新たに設計、橋脚付近の点検作業もより広範囲に行えるようにしました。上部台車、下面足場、下部台車の3つのステージと昇降台車やリフター、ゴンドラといった付属装置を駆使することによって、Dr.RINGは港大橋の大部分にわたる接近目視による点検が可能になりました。

黒埼

また初代の点検台車は移動するエリア全体にくまなくレールだけでなく動力の電力供給のためのトロリー線を設置していたために、メンテナンスに大変な手間がかかっていました。しかし電力は、常時必要なわけではありません。点検箇所まで移動したり、機械設備を動かす時だけ電力があればいい。そこで発想を転換し、点検台車自体にディーゼル発電機を載せ、電力が必要な時だけ発電するシステムにしました。これによってトロリーの配線の必要がなくなり、メンテナンスに要する手間も省けます。

点検台車に設置されたディーゼル発電機

プロジェクトで得たものとは何でしょう?
中野

高速道路は、トンネル換気設備や防災設備、車両重量計測設備など、目にはつかないが重要な機械設備によって支えられています。それを設計・施工・維持管理全般にわたり実施するのが、機械技術者の仕事です。機械の仕事には、機械工学(材料力学、流体力学など)といった専門知識をはじめ、知っておかなければならない技術のエッセンスが多数あります。Dr.RINGのプロジェクトでは今まで経験のなかった知見とノウハウを数多く吸収でき、現在携わっている大和川線の建設工事の業務でも、それらが糧となって大いに役立っています。

黒嵜

随所に斬新なアイデアや技術を盛り込んでつくられたDr.RINGは、阪神高速の技術力の高さを余すところなく示した事例のひとつです。同じような点検専用のプラットフォームは、世界的に見てもほとんど例がないのではないでしょうか。

そのプロジェクトに参加できたことは何ものにも代え難い経験でしたし、これからは情報発信を積極的に行ない、当社の技術力をアピールしていきたいと 思っています。
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