「京」の使用期間は1年間だったこと、「京」を使った研究が初めてであったということもあり、まずは仮想の直線連続高架橋を題材に地震応答解析を行いました。ただし、「京」の計算能力は活用したいということで、その距離は約20kmとしました。
将来の阪神高速湾岸線を対象とした検討を見据えて、
全長約20km(3径間連続高架橋×80、2径間連続高架橋×156、の合計236橋)をモデル化し、
都市直下型地震(横ずれ断層(M6.8))を想定した地震応答解析を実施
連続直線高架橋の地震時の揺れる様子(変形倍率10倍)
時間は断層破壊開始からの時間
ズバ抜けた計算能力を持っているのと同時に使う側がちゃんとした計算技術を持っていないとその能力を発揮してくれない"気難し屋さん"、というのが正直な感想です(笑)。
「京」は分散メモリ型超並列計算機と言われる種類の計算機なので、並列計算を行わなければその能力を発揮できません。そのため、「京」で並列計算ができるような解析プログラム上の工夫を共同研究の中で検討しその成果を用いることで、「京」の計算能力を引き出すことに成功しました。このズバ抜けた計算能力により、桁や橋脚の細部に渡る部分までの地震時に発生する力を求めることができました。また、20kmという非常に長い連続高架橋が地震により揺れ、その揺れが順に伝わっていく様子も把握することができました。
"気難し屋さん"の「京」だからこそ成せる技だと思っています。(笑)
地震時における橋脚と上部構造に発生する応力の様子
(赤い色ほど大きな応力が発生)
兵庫県南部地震において、東神戸大橋は大きく被災しました。鋼製橋脚、ペンデル支承※1、ベーンダンパー※2など数多くの部材で大きな損傷が発生していました。従来の解析では、部材が大きく損傷するような現象を追うことは難しいですが、「京」の計算能力を用いればこのような現象も求めることができるということで、被災した当時の東神戸大橋の地震応答解析を行いました。
震災当時の代表的な損傷とも言えるペンデル支承の破壊状態(ピンプレートがハの字に開いた状態)を再現することができたのは、やはり「京」の計算能力だからだと感じています。橋梁という大構造物で、大きな損傷状態を解析により求めることができたのは、非常に大きな成果であったと感じています。
東神戸大橋の解析モデルの概要
解析によるペンデル支承の損傷の再現状況
今まで解くことができない、解くのが難しい、と諦めていたような難しい問題を、「京」という凄い計算機をうまく使うことによって解決することができました。技術的な殻を破ることができた、すばらしい成功体験とも言えます。
この解析技術をさらに高度化していけば、我々がもっと知りたい、もっと正確に把握しておきたいと考える構造物のあらゆる状況を、正確に捉えることのできるツールになり得ることがわかりました。今まで解くことが不可能だと考えていた他の問題についても、今回と同様に解決できる可能性があると思われます。
「京」を使った研究はまだ始まったばかりです。
今回は仮想の直線高架橋を対象としましたが、これからは今回の検討の目的である阪神高速の地震時の挙動をよりリアルに把握するために、阪神高速全線のモデル化を行い、「京」を使って計算を行いたいと思っています。近い将来、高い確率で発生すると予測されている南海トラフ地震の影響なども、この計算を使いリスクの評価をしていけたらと思っております。
今回は構造物に焦点を当てたお話をしましたが、阪神高速では地震時の揺れが車に与える影響などについても検討を行っています。
今までは、構造物の解析と車両の解析は個別に解いていました。ですが、「京」を使うと、この問題も一度に解くことが可能だと考えています。一度に解くことで、よりリアルな挙動を追い求めることができるかもしれません。「京」の計算能力を使えば、バーチャルな世界での防災訓練も行うことができると思います。近い将来、異空間での防災訓練を実現できるように引き続き検討を行っていきたいと思います。
このプロジェクトに挑戦したことで、「京」を身近に感じてくれるようになった人もいると思います。新しいことにチャレンジしたいという熱意を持った若い人たちにどんどん参加してもらい、想像を遙かに超える京の能力を使って、誰もできなかったような新しい技術の開発に挑戦してほしいと思います。