工事現場は近隣に住宅が密集している都市高速の入口です。クルマがビュンビュン走るすぐそばでの作業となるため、まず現場の安全管理には細心の注意を払いました。また、工事でご迷惑をおかけする地元の方に対して、できる限り丁寧に工事内容や工事の必要性を説明し、ご理解を得るよう心掛けました。
施工管理というと、誰もが工事監督をイメージします。もちろん工事が始まれば工事の安全管理、品質管理に多くの時間を取りますが、それだけではありません。私が工事前にメインで担当したのは、本番工事が始まり、玉出入口が通行止めになることに対して近隣住民のお客様にご理解いただくための地元調整や、通行規制の工事内容・工事期間に関する関係機関(中央省庁・自治体・交通管理者)との調整など、工事に入るための準備を整える仕事。地域の方にご理解をいただき、関係機関の承認とサポートのもと、短期間で安全安心に工事を行なうことは阪神高速の務めであり、それを実現するために施工管理技術者は大きな役割を担っています。
道路橋のような鉄とコンクリートの大きな構造物は、どんなに緻密に設計をしても現場調整が発生します。今回は、工事対象の3径間は縦断勾配としては入口から本線にかけて上り勾配が緩やかになるだけですが、横断勾配は街路側と本線側で変化する場所です。入口は左側の傾き、本線は右カーブ区間なので右側の傾きで、それを連結する場所での取替です。その変化点の勾配について、設計で示された値と現場での実測値の間に食い違いがあって、設計担当とやりとりしながら、現場で高さ調整が必要でした。
道路橋の場合、不確定要素はいくつもあります。今回の工事でいえば、床版を撤去した時、それまで床版の重みで沈み込んでいた橋桁がほんの少し浮き上がってくるのですが、想定以下の量だったのです。その影響もあって床版を固定するための橋桁のスタッドジベルの有効長が設計量を満たせず、急遽長いスタッドジベルを用意しなければならなくなるような出来事も起こりました。設計時の想定と異なる課題が生じたとき、即断、即決、臨機な対応でカバーするのも、施工管理担当者の大切な役目です。
新設床版の架設
工事には、既設床版を撤去する工事、UFC床版・従来プレキャスト床版を新設する工事など、多数の企業が参加しています。私の役目は、そうした施工企業の責任者の方と工事の日程や施工内容について打合せを行い、調整をはかること。多くの方が土木工事で豊富な経験を持たれている大先輩で、多様な意見や要望を集約し、落としどころを見つけていくのは、大変な作業でした。
定例のミーティングでいつも同席する施工企業の現場代理人の方が、同じ大学で同じ研究室の出身だと分かった時は、さすがにビックリしました。先輩後輩のよしみで、何かにつけて意見や提案をくださったり、ここではちょっといえない業界秘話も聞けたりして、とても勉強になりました(笑)。あと、上司のすすめもあって、毎日現場に出て工事が進んでいく様子をそばで見続けられたのは、デスクワークに忙殺されていた私にとっては良い経験でした。安全・工程・品質を確保するためには工事をどんな観点で見ればいいのか、多くのことを学びました。
既設のRC床版を撤去し、UFC床版を設置する時は、入口を閉鎖し、クルマを通行止めにしなければなりません。その間、お客さまには多大なご不便をおかけすることになります。都市高速道路という公共サービスを提供する事業者の責任として、工事期間の短縮に最善を尽くすことは当然の責務であり、関係機関との協議で施工期間を当初の予定から1ヶ月短縮し、2018年7月から11月までの4ヶ月間とすることが決まった時も、全力を挙げてその実現に邁進しました。
工事にあたっては、半年以上も前から施工3社と何度も繰り返し協議を重ね、どのタイミングで、どれだけの人員を投入し、どの工事をどんな順番で行なうか、綿密な工事計画を立てていました。そんな中での工期短縮は、まさに青天の霹靂。すべての日程を見直すことになりました。
STEP1 UFC床版搬入荷降し
STEP2 UFC床版吊上げ旋回
STEP3 専用架設機床版下通過
STEP4 UFC床版把持
STEP5 UFC床版運搬
STEP6 UFC床版架設
長い時間をかけ、練りに練ったプランが変更を余儀なくされたことは、調整役としてはとても残念でした。実際の工事にあたる施工3社のみなさんにも申し訳ない気持ちでいっぱいでした。でも施工3社には、工期短縮の必要性を理解し、何とか計画変更に応じていただき、安全管理を第一に考えながらも、現場の方の体に負担にならない程度に作業時間を延長したり、さらに同時の作業が可能な方法を調整したり、作業を効率化したり、すべての関係者が目に見えないところまで改善したことで、関係機関との協議通りに1ヶ月の工期短縮を実現しました。
玉出入口ランプ橋の床版更新工事にあたってはUFC床版の他に、もうひとつ新技術が投入された。飛島建設株式会社と第一カッター興業株式会社との共同で開発した「Hydro-Jet RD工法(床版急速撤去工法)」だ。
これは、橋桁と床版をつなぐために桁上に密集配置された接合用スタッド(鋲)周辺のコンクリートを、高速道路を供用しながらウォータージェットで事前に除去することで、通行止め後にスピーディに床版を取り除くことができるというもの。
UFC床版とHydro-Jet RD工法。2つの新技術が投入された玉出入口の床版取替工事は、"最先端の現場"だったといえる。
床版撤去方法の比較
Hydro-Jet RD工法の施工手順