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下弦ケーブルを用いた有ヒンジラーメン橋の補強設計と施工(3/4)

世界初の「下弦ケーブルによる補強」がスタート

最終的に「下弦ケーブル案」は採用され、いよいよ施工に向けての動きが始まった。
通行止め期間は8日間。工事のメインとなるのは以下の4点だった。

  1. 中央ヒンジ部に、改良のための水平ゴム支承を埋め込む。
  2. ストラットの取り付け。
  3. ケーブルを定着させる柱頭部の改良。
  4. ストラットを通して橋脚間に外ケーブルを張り、たわみを回復させる。

1.中央ヒンジ部に、改良のための水平ゴム支承を埋め込む。

この作業は、ケーブルの緊張によって柱が倒れるのを防ぐため、中央ヒンジ(蝶番)部分に巨大なゴムの塊をはさみこむというもの。道路の上をめくってゴムを取り付けると4~5日かかり、8日間の通行止め期間の半分を費やすことになる。その間、工事用の車両が通れないため、他の工事に大きな支障をきたす。そこで、道路の下に足場を組んで通行止めの前に工事が進められた。

図:巨大なゴムの塊を設置
写真:水平ゴム支承を取付け(道路下から見る)

2.ストラットの取り付け

ケーブルが描く三角形が大きい程、引っ張る力が強くなり、たわみ回復の効果が期待できる。ストラットの高さは当初の2.5mから4.5mに引き上げられた。ただし、ストラットの先端があまり下がりすぎると、交差点を通るドライバーに圧迫感を与える上、万一ケーブルを引っかけでもされた場合、大惨事につながる。そこで信号よりも高く、地上から6mの地点を限度に、ストラットが取り付けられた。

図:ストラット取り付け
写真:ストラット架設

3.ケーブルを定着させる柱頭部の改良

ケーブルアンカーをしっかりと定着させるため、柱頭部に新たに75cmの厚みのコンクリートを打設した。

図:75cmの厚みのコンクリートを打設
写真:柱頭部隔壁への水平削孔

4.ストラットを通して橋脚間に外ケーブルを張り、たわみを回復させる。

4本のケーブルに700tの荷重を徐々にかけて引っ張り、たわみを回復させる。この時に不均等な荷重がストラットに作用することを防ぐため、8基のジャッキを同時に作動させ、ひずみがないかを計測しながら、一晩かけてケーブルを張り終えた。

図:たわみ回復
写真:ケーブル架設(桁端マンホールからの引き込み)
写真:ケーブル定着部
写真:鈴木 威
現場でも様々な苦労があったでしょうね?
鈴木

多すぎて思い出すのも困難なくらい(笑)。

まずは足場を組んで工事ができるスペースを確保するのが一苦労でした。大規模補修工事では、この工事以外にもたくさんの工事が行われます。橋を通行止めにすると工事用車両が行き来できず、他の工事の妨げになってしまいます。そこで、できる限り下から工事をすることにしましたが、その下というのが交通量の多い交差点です。ここを全面通行止めにしてもらうのは不可能。そこで警察にお願いし、交通量の少ない深夜に通行規制をさせてもらって、工事ができる空間を確保することにしました。

警察に何度も足を運び、「とにかく放っておけないんです」と事情を説明しました。極力ドライバーの皆さんにご迷惑をかけないよう、規制図も工事の内容に合わせてたくさんのパターンをつくったので、現場の担当者の方には大変面倒な作業を強いることになりました。

写真:一部交通規制をしながら3ヶ月かけて作成できた道路下の工事用空間
松本

ヒンジ部分にはめこむゴムや、ストラットをつくるメーカーもずいぶん苦労したと思いますよ。ストラットについては、溶接が命。TIG溶接と言うのですが、これが下手だと、そこからひび割れを起こし、落下ということにもなりかねないので、非常に神経を遣うんです。依頼したメーカーの社長から「全然儲からないけど、しっかりやっておきました」と言われましたっけ(笑)。

メーカーさんにとってはお金ももちろん大切ですが、それよりも会社の信用、プライドがもっと大切ですからね。私達にできる恩返しは、その心意気をしっかりと受け止めて、最後に成功に導くことだと思っています。

写真:ストラット製作
鈴木

最後にケーブルを張る時だけは、橋の上を工事用車両が通らないよう、全面通行止めにしてもらいました。8台のジャッキを一度に動かすなど前代未聞。失敗は許されません。たわみ部分を40㎜上げるのに、8段階に分けて少しずつ作業していきました。終った時には夜がしらじらと明けかけていました。

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