道路の保全情報、設備管理、交通管理等、各部署の業務支援システムにはそれぞれ貴重なデータが蓄積され、個別に管理されている。その膨大なデータを集約、展開する新しい仕組みを構築するため、2015年9月、幅広い部署からなる検討会を立ち上げ、基本計画が練られた。
最も大きな課題である、この取り組みを主体的に進める部署をどのように決定されたのでしょうか。
まず、道路のメンテナンスや交通管理業務も行っている保全交通部に相談したところ、「多種多様なデータは組み合わせることで、価値をさらに高めることができる」という意識を既に持たれていたこともあり、早期に主体的に進めてもらう部署を決めて動き出すことができました。当時はまだDXという言葉は一般的ではありませんでしたが、IT化の次の段階がどのようなものかという議論がすでになされており、システム間の連携技術についても違和感なく語られ始めていた時期に来ていたのだと思います。タイミングが良かったですね。
好発進だったのですね。次に何を進めていきましたか。
人集めです。この取り組みに賛同してくれる人を集めて「場づくり」を行いました。私はシステム開発とは、結局は「人」なのだと捉えています。プログラムを作ることも大変ですが、どのようなシステムをつくっていくのかは、膝を突き合わせて何時間も議論し、時には紙に書いてやり取りするため作業の時間が長くなります。
結局は、既存のシステムとシステム同士をうまく繋ぎ合わせるためにはどうすべきかを考える作業ですので、各部署のシステム担当者がコミュニケーションを深めないとうまく連携させることができない。なので、賛同する社内のさまざまな部署の担当者を集め、話し合いの場をつくったところ、30人ほどが集まり、2015年9月、検討会を立ち上げました。討論会で各システムの内容を把握し連携方法について半年間にわたって議論し、2016年2月、「COSMOS基本計画」を取りまとめました。
進めていく中で苦労された点は?
当社では、それぞれの部署で積み上げてきた貴重なデータを活用するためのシステムがつくり上げられているので、他部署のことはあまり分からずコミュニケーションが捗りませんでした。そこで、他部署のことを理解するためのプロジェクトであり、部署間の連携が重要だと理解してもらうことから始めました。お互いのシステムをよく知り合うために、自分たちが担当しているシステムの紹介から始めると、各メンバーも自部署の課題が、実は他部署のシステムのデータを使うことで解決することができるのではないか、という新たな発想、イマジネーションが少しずつ湧くようになり、部門間の連携が重要だと自分ごととして理解するようになりました。私は、検討会のメンバーには常に、「自分ごと」としてとらえる意識を持ってもらうことが大切だと考えていました。メンバーも大変だったかと思いますが、最初にこれを行ったことで、アイデアも出やすくなっと思います。会合ではCOSMOSの完成を想定し自由に意見を出していきましたさらに検討会メンバーのそれぞれの部署においても情報を共有し、アイデアを出してもらうことで、さらに幅広い意見を集めて検討を重ねました。
GIS(地理情報システム)を基盤とすることは、どのように決まったのでしょうか。
検討会の早い段階から、各システムの連携にはGISが合うのではないかと話し合っていました。阪神高速道路は阪神都市圏の広い範囲で地面に固着している構造物、設備を維持管理し、サービスを提供しており地図との相性が極めて高い業態です。提供しているサービスが地図の上で表現できるため、GISは高速道路にはぴったりだろうと考えていたのです。
GISにはさまざまな情報を重ねることができます。様々な情報を重ねることで、別々の事象が実は関係しているのではないかという新たな発見ができます。これがグラフや表だけだと、人間の頭の中でそれらを合成して因果関係、関係性を直観的に把握することはなかなかできません。GISの地図上で重ねて得られた新たな発見を私たちは「新たな価値の創造」と呼び、非常に役に立つツールだと思っています。
ただ、ここで気を付けなければいけないのは、目的があってこその道具だということです。目的達成の手段としてGISを使うので、GISは単なる道具でしかありません。この点を大事にしなければならない。これが逆転してしまうと、何のための開発なのかわからなくなってしまう。「目的一番、手段は二番」。これはどんな仕事でもぶれないようにしたいと思っています。