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難問を解決した逆転の発想。不可能を可能にした揺るぎない意志。

UFC床版の現場適用に向けて、技術者たちが本格的に動き始めたのは2017年12月。2011年に始まる共同研究の6年間の成果をふまえ、玉出入口の床版取替工事を行なうための詳細設計が始まった。先進的で野心的な技術であればあるほど、それを社会に実装するには多くの困難が伴う。詳細設計にあたる技術者たちもまた、多くの難しい課題に直面し、それを乗り越えるために、果敢な挑戦を続けた。

発想の転換で、オールプレキャスト化を実現

佐藤彰紀 建設・更新事業本部 神戸建設部 プロジェクト第一課 2007年入社 主に設計の仕事に従事。玉出入口のリニューアル工事では、詳細設計を担当。現在は、大阪湾岸道路西伸部のプロジェクトに関わる。大学院工学研究科(土木系)修了。
詳細設計の役割について、教えてください。
佐藤

2011年から始まった共同研究によって材料の配合や構造設計手法などの基本的な方針が示され、床版そのものの設計は十分可能になりました。でもそれを実際の床版取替工事に適用するとなると、床版と橋桁を具体的にどのようにつなぐのか、また既設のRC床版とUFC床版とでは厚みも違うので、それをどう整合させるかといった多くの課題が生じます。そうした現場固有の課題を設計面で解決し、最新技術を現場の状況にいかに適合させるかを考えるのが、詳細設計にあたる私たち技術者の仕事です。

いちばん困難だった課題は何ですか?
佐藤

UFC床版は、橋梁1連ごとに13枚の床版パネルを並べ、鋼材で橋軸方向に「プレストレス」(※3)をかけて結束した構造になっています。プレストレスをかけるには、一般的には、13枚のパネルのうちの両サイドの2パネルの外側に、鋼材を緊張するためのスペースが必要で、最終的にはそのスペースにもUFCを場所打ち(※4)しなくてはなりません。UFC床版は、品質管理の行き届いた工場で生産、プレキャスト(※5)されることで優れた強度や耐久性を実現しています。一部のUFCを場所打ちするとなると品質にバラツキが生じ、橋梁全体に影響が及ぶかもしれません。これをいかに解決するかが、設計者にとってはいちばんの悩みのタネでした。

 
  • ※3:プレストレス
    コンクリートの弱点である引張り強度を高めるために、鋼材であらかじめ圧縮応力を加えること。
  • ※4:場所打ち
    建設現場で型枠を組み、そこにコンクリートを流し込んで構造物をつくること。
  • ※5:プレキャスト工法
    工場生産したコンクリート部材を建設現場に運び、組立て・設置を行なってコンクリート構造物をつくる工法。現場で型枠をつくり、コンクリートを流し込んで構造物をつくる場所打ち方法に比べ、工期短縮や品質向上などのメリットがある。
それをどのように解決されたのですか?
佐藤

パネルをひとまとめにプレストレスをかける一般的な方法を改め、13枚を「交差定着パネル」を中心に前後に6枚ずつパネルがならぶ2つのグループに分け、交差定着パネルから緊張ジャッキでそれぞれにテンションをかけて一体化することにしたのです。

この方法であれば、鋼材を緊張するスペースが床版下面となり、場所打ち部をなくすことができ、橋梁全体の耐久性向上と場所打ち工が省かれることによる工期短縮が実現します。

交差定着部の載荷実験

交差定着部の載荷実験

交差定着部の緊張

交差定着部の緊張

橋爪

この方法の場合も、13枚のパネルの両端の「端部パネル」には鋼材を固定するプレートを埋設しなければなりませんが、パネルを2つのグループに分割するので、プレートにかかる荷重は小さくなり、強度の高いUFC床版をもってすれば十分荷重に耐えられます。鉄のように強いUFC床版の特性を積極的に活用した解決策といえます。

縦締めPC鋼材の配置イメージ

縦締めPC鋼材の配置イメージ

狭い空間での作業を可能にする専用架設機を開発

UFC床版の厚みは180mmで、既設のRC床版より30mmも薄い。設計上の問題はなかったのですか?
佐藤
新型架設機によるプレキャストパネルの設置

新型架設機によるプレキャストパネルの設置

今もし仮に、UFC床版以外の一般的なプレキャスト床版を使った場合、現行の建築基準に適合させるためには、厚みを250mm程度まで厚くしなければなりません。元の路面の高さを維持するのには、相当難しい設計を強いられるでしょう。UFC床版は既設床版より薄いため、その点の設計はむしろやりやすかったと思います。ただ薄くなる分、路面の高さを維持しようとすると、床版と桁の接合部を嵩上げする必要があって、接合部にどのような材料を使うのか、検討には多くの時間を要しました。

他にエポックメークなトピックをあげるとすると?
佐藤

通常、道路床版の架設工事は、大型クレーン車を使って行ないます。しかし玉出入口は道路幅が1車線分しかなく、また本線と一般街路にはさまれた狭隘な施工環境で、大型クレーン車を持ち込んでの工事は制約が多い。そのため、大型クレーン車に代わる専用架設機を新たに開発し、現場に投入しました。

橋爪

UFC床版の最大の特徴は、従来のRC床版に比べて極めて軽いことです。しかし、今回の橋梁の構造上、せっかく軽量のUFC床版を使っても、重たいクレーンで作業を行うとなると、結局そのために主桁を補強しなければならず、軽量のUFC床版を適用する意味がなくなります。でもクレーンに比べてはるかに軽量の専用架設機なら、わずかな補強だけで作業が可能となり、工事のスピードアップとコスト軽減につながります。

佐藤

専用架設機は、大型トラックに積んで現場に運び込んだUFC床版のパネルを1枚1枚つかみ、保持した状態で自力走行しながら定位置まで運んで、降ろします。機械の動作やメカニズムは複雑なものではありませんが、玉出入口は、勾配7%の上り坂。傾斜のついた坂道を自走して、所定の位置に正確にパネルを据え付けるのも難しい作業です。専用架設機は、限られたスペースで安全に、かつ効率よく運搬・設置作業を行える、優れた機械です。

UFC床版運搬概要図

中山

専用架設機の設計・製作は、施工を行う鹿島建設株式会社(開発協力:丸栄コンクリート工業株式会社)が担当しました。実際の工事の前には、UFC床版を製造する工場に玉出入口の橋桁と同じサイズの実物大模型をつくり、専用架設機でUFC床版を並べる施工試験を行ないました。試験には私と佐藤君とで立ち会い、専用機が上り坂をUFC床版を保持した状態で安定して走行できるかどうか、また設計通りにミリ単位の精度で定位置に設置できるかどうかなどを確認して工事にのぞみました。

先端技術だからこその難しさと楽しさ

面白味を感じたのは、どんなところですか?
橋爪

UFC床版は、「まるで鉄のように硬い」というのがセールスポイントで、実際に表面をハンマーで叩くと“カーン”という甲高い音とともに、ハンマーを持つ手が弾き返されるような衝撃を感じます。でも「強みは、弱み」でもあります。余りにも硬いためにUFC床版に固定した伸縮継手のような構造物が劣化、損傷した場合、通常のRC床版のようにコンクリート床版を斫り取って取替えることができません。その時どうやって取替えられるようにするかは、将来の維持管理を見越した設計を行う上での課題でした。みんなで話し合い、知恵を出し合って、最終的には特殊なボルトをあらかじめ埋め込んでおくと共に、そのボルトが使えなくなっても採用可能な伸縮継手材料の存在を調査し、設定しておくことで解決したのですが、答えをゼロから謎解きのように導き出していく過程が楽しくもありました。常識を覆すほどの性能を誇るUFC床版ならではの体験だったと、今振り返って思います。

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