アメリカでは見られたものの、日本では起こらないと考えられていたASR。しかし、それは日本でも起こった。
なぜなのか。どこに原因があるのか。それが分かれば、対策を立てやすくなる。
阪神高速では社外から学識者、行政機関の担当者を招いて調査研究委員会を発足させ、事態の解明と対策に乗り出した。
多岐にわたる実験・調査の結果、ASRによるコンクリートの劣化は、その時点で耐荷力には影響を及ぼしていないことがわかった。そこで表面保護工と止水対策が補修の基本となった。ASRによって生成されたゲルは、水がなければ膨張できないからである。
そして、"ASRを引き起こす原因"も、委員会はつきとめるに至った。その原因は、コンクリートに使用された石(骨材)に有害な鉱物が含まれていた、というものであった。
それは筆舌に尽くしがたい程の苦労だったと思います。これまでなかった現象について調査し、原因を究明していくのですから。
日本は火山国なので、火成岩にはシリカ(SiO2)が含まれている比率が高いんです。このシリカがアルカリ水溶液と反応してゲルを生成していたんですね。
このことがわかってから、ASRの原因になりそうな成分をもった石を使わない、あるいはASRを抑制する効果のあるセメントを用いるなど、ASR抑制に関する国の指針が出されました。その結果、それ以後に建設されたコンクリート構造物では、ASRは激減しました。
私達は、基本的には、そのような規制がなかった昭和50年代の前半に造られた構造物を、しっかりとフォローしていけばよくなったわけです。諸先輩方の努力がようやく報われた瞬間でした。
昭和60年以降、対策や規制が進められたことで、新たに建設される構造物においてはASR発生の可能性は少なくなった。
ただし、すでにアルカリ骨材反応を示している橋脚(ASR橋脚)に関しては、追跡調査を続ける必要があった。今後どのように劣化が進行するか、予断を許さなかったからだ。
ASRの進行には様々な因子が影響するので、ASRが生じたものすべてが著しい劣化を示すとは限らないのです。そこで一つ一つの橋脚の経過を観察しながら、それぞれに適した抑制対策を施す必要があります。
地味で根気のいる作業ですが、ASRの進展に伴ってどのような変状が現れるかが分かれば、適切なタイミングで対策を打ち出しやすい。
そのような追跡点検や維持管理の方法は、関係者の経験をもとに少しずつ確立され、マニュアルとしてまとめられてきました。そのマニュアルは、今もよりよいものにするための努力が続けられています。
まさにその通りです。
我々の仕事は、慢性病の患者さんと付き合っているようなものですよ。
一つ一つの橋脚にカルテがあり、それをもとに、橋脚ができるだけいい状態を保てるよう、ケアしていく…ということですね。