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日本初、鋼管集成橋脚の開発と実用化(5/5)

技術が誰かのために出来ること

海老江ジャンクションで第1号の鋼管集成橋脚を完成させた阪神高速は、続いて西船場ジャンクションにおいて12基の鋼管集成橋脚を施工中である。西船場ジャンクションは慢性的な渋滞の解消や、利便性の向上をめざして、大阪港線拡幅(約800メートル)と環状線拡幅(約710メートル)、そしてそれらを結ぶ信濃橋渡り線(約180メートル)工事が行われている。

西船場ジャンクション

西船場ジャンクションで特筆すべき点は?

篠原

対震橋脚として鋼管集成橋脚を使用したことと、フーチングのない杭基礎一体型を採用したことですね。

対震橋脚…ですか?

篠原

はい。今回施工している12基は、平常時には桁などの上部構造を支えていません。
しかし地震が起きると速やかにその揺れを受けとめ、せん断パネルが地震エネルギーを吸収し、橋梁全体の揺れをおさえます。また、万が一、想定を超えるような地震が起きてしまった時には、道路そのものも支える働きをしてくれます。そのような橋脚を対震橋脚と呼んでいます。

西船場JCTの橋脚構造図 フーチングのない杭基礎一体型の基礎が特長

西船場JCTの橋脚構造図
フーチングのない杭基礎一体型の基礎が特長

フーチングの無い基礎については、なぜ採用されたのでしょうか?

小坂

現場では高速道路のすぐ横を道路が走っています。また地下には埋設管があり、地下鉄函体にも近いことから大きな基礎をつくることは困難でした。また工事の際に重機などが入る施工ヤードも出来るだけコンパクトにすることが、都市内では求められます。杭基礎一体型で、フーチングを省略できる鋼管集成橋脚は、まさに打ってつけだったのです。

さらに、新しくつくる橋脚は街路の本線と側道の分離帯に設置されるので、見通しを出来るだけ妨げないことも交通安全の観点から重要でした。鋼管4本で構成される鋼管集成橋脚は、見通しの良さという点でも優れた橋脚と言えると思います。

西船場JCT鋼管集成橋脚の完成イメージ

西船場JCT鋼管集成橋脚の完成イメージ

西船場で採用された鋼管集成橋脚の対震橋脚としての使用方法は特許を取得し、海老江ジャンクションの鋼管集成橋脚は、土木学会技術開発賞を受賞した。10年越しの苦労は世に認められるところとなったのである。

振り返ってみて、改めて苦労したなと思うことは?

篠原

苦労というよりは学んだことなのですが、新しい技術を生み出そうとすると、実験や解析といったことももちろん大切ですが、人を巻き込んでいくための熱意がものすごく重要なんだなと感じました。

「自分たちのグループだけではとてもできない。多くの人の力を借りて技術というものは生み出されるんだと実感できたことは、とても貴重な体験でした。 」

篠原 聖二
小坂

私も同感です。関係者に協力を求めて歩き、最後は皆さん諦めたのか(笑)、いいよ、やろうよと言っていただいた時は本当に嬉しかった。技術力というのは人間力なんだというのはその通りだと思いますね。

これからの抱負を聞かせてください。

篠原

私が今回のプロジェクトの担当になったのは、入社4年目のことでした。未熟な私に、プロジェクトのリーダーは「こういう橋脚が出来たら面白いと思わないか?」と語りかけ、面白そうだなと思った時にはドサッと宿題を渡されていました(笑)。
それからはもう必死で、鋼管集成橋脚を実際に使えるものにするために突っ走ってきましたが、その過程で博士号まで取らせていただきました。今では私の中に種を蒔いてくれたそのリーダーに、心から感謝しています。自分のこの経験を生かして、今度は私が種を蒔く人にならなくてはと強く感じています。きっとそれが会社の言うところの“技術の継承”なんだろうなと思っています。

小坂

私自身は阪神高速という発注者の立場として、プロジェクトの最初から最後まで関わることができるのを大きな魅力と感じています。何もない図面の状態から工事を発注し、構造物が出来上がっていき、開通式にまで出られるというのは発注者ならではの醍醐味です。だからこそ、新しいことに大胆にチャレンジしていかなくてはならないし、同時に慎重さを忘れてはならないと思っています。鋼管集成橋脚をこれからの道路にどう活かしていくかも大きな課題です。気持ちを引き締めて前進していきたいと思います。

(2016年1月 更新)
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