「先進の道路サービスへ」を理念に掲げる阪神高速らしく、フレッシュアップ工事を行うたびに、何らかの挑戦が行われている。
たとえば2015年の5号湾岸線では数多くの区間において鋼床版部の舗装の打ち替え(一部はSFRC舗装に打ち替え)を行うと同時に、ドライバーに向けてう回路の所要時間を表示するシステムを試験的に運用した。2014年には13号東大阪線において、延長100m余りの単純桁の連続する橋梁区間において12か所のジョイントと桁の端部をし、橋桁同士を連結するという通行止め工事としては本邦初の工事を行った。同年の12号守口線でも車の荷重を直接支える床版を連結してノージョイント化を実現、さらにジョイントのある場所には縦断修正を実施することによって路面段差を軽減させた。
単にきれいにするのではなく、いかに道路の性能を高めるかという思い、そして常に新しいことに挑戦するという気概は、もはや遺伝子のように阪神高速の中に浸透しているようだ。
湾岸線には道路を支える床版に鋼床版が多く使われています。
鋼床版上面にはボルトがあるため、ボルトを損傷させることなく舗装を撤去しなくてはなりません。そこで、舗装の表層は大型切削機で撤去し、基層は大型の機械で舗装を剥ぎ取った後、ボルト周りは人力で丁寧に剥ぎ取る必要があります。また、鋼床版表面に舗装が密着するように、基層の施工前には、鋼床版表面の研掃作業を行います。コンクリート床版部の舗装の打替えに比べ、かなりの手間を要するのです。今回の工事では、これまでの実績の約2倍にあたる約 50,000㎡の鋼床版部の舗装を打替えました。
SFRC(繊維補強コンクリート)の施工状況(湾岸線)
また鋼床版に疲労き裂が発生している箇所では、基層を剛性の高いSFRC(繊維補強コンクリート)舗装に打替え、鋼床版の疲労損傷対策を実施しました。その際に新しい接着剤を使うなど実験的な試みもしています。
ドライバーの方に少しでも役立てばと思い、湾岸線で試験的に実施しました。カーナビ、スマートフォン等が発信するBluetooth通信に含まれる情報を使い、地点間の移動時間を計測、う回路の所要時間を割り出し、工事予告車につけた案内板に表示させるようにしたのです。あくまで試験なので時間を割り出すのも、予告車にその情報を送るのもすべて手作業。10分ごとに電話で伝えて予告車のドライバーが手でパネルを差し替えるという(笑)。
アンケートでもし好評であれば、次回はもう少し予算をつけてもらえると思います。
西海さん、毎日バッテリー交換に行っていましたよね
そう。Bluetoothの受信機を設置した場所が一か所電源のない所で…。
重いバッテリーを抱えて、毎日往復2kmを歩いていました。
やっていることは先進やけど、手法はアナログやな
(爆笑)
西海 能史
北港案内表示(湾岸線)
東大阪線の法円坂付近というのは、難波宮跡があるために本線が高架から一旦地上部に下りてくる縦断線形になっている上、直下に地下鉄のシールドトンネルが構築されているなどの条件から、この区間では、径間の長さが幅員よりも短い桁が連続する特殊な構造の橋梁になっています。そのため繰り返し損傷が発生し、これまでにも大規模な補修が行われてきました。しかしこのままではダメだということで、抜本的な構造改良が行われることになりました。それが橋梁の連結化です。12か所もの橋脚の前後1mほどを切断して撤去し、新たに設置する橋桁で連結するという大工事で、しかも8日間という通行止め期間中に、通常の補修と併せて行うというところが本邦初でした。少しでも段取りが狂ったら大変なことになります。ものすごいプレッシャーですよ。
桁・床版の連結化工事のステップ
施工前
施工後
法円坂での鋼桁工事の様子(東大阪線)
守口線では「床版連結」という工事を行いました。
阪神高速では、伸縮継手と呼ばれるジョイントを無くすノージョイント化を推進しています。路面走行性や安全性が向上するとともに、車両走行時の騒音、振動についても大幅な低減が期待されるからです。従来は鋼桁の主桁連結(隣接する主桁同士の連結)が可能なI桁が対象でしたが、桁同士の連結ができない条件下でも、コンクリート床版だけを連結する「床版連結」であれば、ノージョイント化が可能になるのです。これもやはり通常の補修と並行しての工事でしたので、スケジュール調整にはかなり神経を遣いました。
伸縮継手を撤去した状況(池田線)
橋桁上面のコンクリートの鉄筋を繋いでいる状況(池田線)
雨、降りましたよね。
そう、8日間のうち、ほぼ4日が雨!今だから言えますが、さすがに心が折れそうになったこともありました。
でもそんな時に俄然結束を強めるのが阪神高速。なんとか無事に完成させることが出来て良かったです。
どうしてもジョイントを残さなくてはならない場合に、走行性を高めるために行っているのが縦断修正です。
これについてはもと保全工事課の宮本さんが詳しいので・・・
急に振らんといて(笑)。
…これはもともと、沿道の方々の苦情をきっかけに生まれた補修工事なんですよ。
宮本の言うように「縦断修正」は10年余前、せっかく補修したにもかかわらず、「以前よりも騒音や振動がひどくなった」という沿道からの苦情が数多く寄せられたことから編み出された、阪神高速独自の手法である。
舗装と伸縮継手は、個別の補修を繰りかえし、その結果、段差が発生してしまう箇所が出てきてしまいます。
それをそのまま個別で補修しても段差を解消するのは困難です。
そこで出てきたのが「縦断修正」でした。車の走る方向を「縦断」と呼ぶのですが、これを出来る限りフラットにしようというものです。
次のような手順で行います。
切削機で舗装を削っていくところがミソで、ここをいい加減にすると元も子もありません。そのあたりを舗装業者さんにわかってもらうのに苦労しましたが、ようやく根付いてきたかなという気がしています。
縦断修正は通行止めでしか出来ない手間と時間のかかる工事である。しかし阪神高速では出来る限りこの工事を行っている。ある時、苦情を寄せていた住民の一人からお礼の電話がかかってきたそうだ。「ありがとう」のひと言に、道路に寄せる技術者の愛情とプライドが報われた瞬間だった。