プロジェクトには、どの段階から関わっておられるのですか?
プロジェクトは、最初の構想段階から始まり、最終的に新たなシステムにどのような機能を盛り込むのかを議論し工事発注されます。私が「HI-TEX」にかかわるようになったのは、発注前の最終段階となる「どのような新機能を盛り込んだシステムとするのか」について議論していた頃になります。また、発注後は現場監督員として施工会社と細部の仕様を検討するとともに、関連部署や機関、他システム工事との度重なる調整を経て工事竣工まで携わらせていただきました。
どんな工事があるのですか?
HI-TEXでは、道路上にこれまで設置されてきた交通流監視カメラや車両検知器などのセンサを使ってデータを収集、解析し、その結果について情報板等を通じお客さまに提供するためのシステム構築となります。新たにセンサ類を設置する工事は含まれません。またパーキングエリアに渋滞情報を表示するモニターの更新などが一部あるものの、メインは交通管制システムの全面更新工事です。
工事は、どのように行なわれたのですか?
交通管制室は、24時間365日、休む間もなく動き続けています。工事によって管制業務が中断されることがあってはなりません。そこで工事前に「仮の管制室」をつくり、そこに必要最小限の運用卓などを管制室より順次移設し、旧管制室を誰もいない無人の状態にした上で建物改修工事にあたりました。その後、新しい操作卓などを建物改修後の新管制室に設置していくことで最終的に「仮管制室」→「新管制室」への運用切替を実施していきました。
また阪神高速道路には、トンネル防災システムをはじめ、遠隔監視のカメラをコントロールするシステムやパトロールカーと交通管制室をむすぶ無線通信システムなど、さまざまな電気通信システムが稼働しています。それをすべて一斉に切り替えると管制業務に支障の出る恐れがあるので、システムをグルーピングし、タイミングをズラして工事にあたるなど、リスク回避に細心の注意を払いながら工事を行ないました。
新旧の管制室の移設には、相当な時間がかかったのでは?
旧管制室から仮の管制室に移る時は3日ほどかかりましたが、新しい管制室に戻る時には新設機器を無人の管制室に設置し、当日は管制員の方が移ればいいだけという状態まで改修を終わらせていたので、一日で完了できました。
万全の準備とは?
工事前の全体会議で想定しうるリスクをすべて洗い出し、万が一不具合があった場合に備え、あらかじめ予備品を用意したり、ケーブルの差し込みを間違えないように目印のタグを付けるなど、極力ミスの発生を抑える対策を講じました。それもあって工事全体を通じて大きな不具合やトラブルもなく、無事に本番稼働の当日を迎えることができました。また、新旧中央装置に対してデータの並行入力を行っておくことで本番環境に限りなく近くなるような試験や関連システムとの連携試験なども事前に十分な試験調整作業も実施しました。
いちばん印象に残っていることは何ですか?
すべての工事を完了し、本番稼働の瞬間に立ち会えたことです。管制員のみなさんにとっては、単にシステムが新しくなっただけで、特別な感情まではなかったかもしれませんが、工事に携わった私たちは違います。施工会社との仕様検討、他社のバックアップシステムの視察、40名近い人数が集まる全体会議など、その日を迎えるまでには長い道のりでした。本番直前には、全面改修を終えた大阪と神戸の2つの管制室をつなぎ、大規模災害を想定した実地テストも行ないました。それだけに、本番稼働が始まった時は、言葉にならない達成感がありました。
樽岡さんにとって、プロジェクトはどんな経験でしたか?
今回のリプレースは、前回から18年が過ぎての更新で、社内でも直接携わる機会は限られます。それだけに貴重な経験だったと思っています。また交通管制システムは、高速道路を動かすさまざまなシステムの中でも頂点に位置するシステムであり、高速道路を維持管理する上で機能中枢となるシステム。その構築に工事主担当として関わり、全体を取りまとめる経験を積めたことは、将来のキャリアを考える上でも大きな財産になりました。
プロジェクトを通じて、成長を実感されることは?
大がかりな工事の主担当を務めるのは、初めてでした。以前は自分が担当する工事を粛々と進めていくことのみに重点を置けばよかったのですが、管制システムの改修をメインとする関連工事全体を取りまとめるとなると、個々のシステムのことも理解していないと、システム間の調整はできません。全体を視野に置きながらも、ひとつひとつのシステムについても目配せをし、社内外の関係者と意見調整をはかりながら工事を進めていくのもひとつの技術力。将来新たな大規模プロジェクトを担当する機会がめぐってきた時は、今回の経験を十分に役立てたいと思います。