2008年7月、港大橋の地震対策は完了した。設計を始めてから6年を費やしたプロジェクトでは、「床組免震」「制震ブレース」以外にも、構造再生のための補強が細部にわたって施され、大阪港のシンボルである赤い橋は見事に再生を果たしたのである。
続いて2009年には東神戸大橋、2010年には天保山大橋の2つの長大橋においても、免震・制震をコンセプトに地震対策が図られた。東神戸大橋については、「縦置きサンドイッチ型積層ゴムダンパー+ケーブル」が取り付けられ、天保山大橋においては、塔下部の斜材と水平梁が交わる接合部(ガセット部)に「せん断パネルダンパー」が設置された。
東神戸大橋は、もともとゆっくりゆれる免震構造の橋でした。
港大橋のところでご説明したように、普通の橋は何らかの形で主塔部と主桁を固定していますが、この橋は固定していません。ブランコのように揺れることで、地震のエネルギーと絶縁されるように設計されているんです。私の入社当時に上司が設計した橋で、いま考えても相当斬新。私自身もかなり影響を受けています。
当時は橋の揺れ幅を1m前後に設定していたんです。けれども震災後の地震力の見直しにより、2m前後揺れても大丈夫なようにする必要性が出てきました。
取り付けた「縦置きサンドイッチ型積層ゴムダンパー」は、地震の揺れによってケーブルが引っ張られると、ゴムダンパーが変形するようにつくられています。そのことによって橋が動くのをやわらかく受け止め、大きな橋桁の移動を制御することができるのです。
天保山大橋のガセット部に設置したせん断パネルダンパーは、極端な言い方をすれば、スマートに壊れてもらうためのものです。
ある一定以上の力に対して確実に、しかもせん断方向に変形することで、地震エネルギーを吸収し、塔斜材が座屈することを防ぐのです。一部を上手に壊すことで、本体に致命的な損傷を起こさせないという、いわば逆転の発想ですね。
港大橋の制震ブレース同様、世界で初めての試みであり、採用を決定するために、相当苦労しました。