都市部を走る阪神高速道路には、数多くの高架橋がある。その一つ、14号松原線の喜連瓜破高架橋は、1979年に建設された。「有ヒンジラーメン橋」という構造の橋は、スレンダーで地震に強く、中央部にヒンジという蝶番のような部分を有するのが特徴だ。
ところが、このヒンジ部分が徐々に沈下してきていることが、明らかになった。
もともと構造的に、ある程度の沈下は予測されてはいたが、それを上回るスピードで沈下が進行している。高架橋の真下は喜連瓜破交差点、何とかして沈下を食い止めなくては大変なことになってしまう。かと言って、主要交差点だけに長期間の通行止めをすることもできない。
平成15(2003)年に、14号松原線の大規模補修工事(通行止め工事)が行われるのに合わせてプロジェクトチームが組まれ、補強対策がスタートした。果たして橋の沈下は止められるのか。当時のメンバーだった松本茂と鈴木威が、その挑戦の日々を振り返った。
私は保全技術課係長という立場でした。現場で直接指揮をとるのではなく、どのようにすれば迅速かつ安全に橋の沈下を食い止められるかを、様々な部署や有識者とともに検討し、方向性を決定してくという・・・いわば旗振り役といったところです。
私は設計の立場から、どのような対策が最も有効であるかを提案していくというポジションでした。それを実行に移す際の現場の進行も、職務には含まれていました。
有ヒンジラーメン橋というのは、1960年から1980年代にかけて多く建設された橋で、交差点をまたぐ十分なスパンが確保でき、なおかつ経済的という長所をもっています。ただ、コンクリートの伸び縮みを調整するために中央に設けたヒンジ(蝶番)部分が、年数を経るに従って少し沈下することがわかっていました。
しかし、ある程度まで沈下すると、そこで止まるというのが定説でした。建設時の予測では10年から15年後で53.6mm、つまり5cm強で沈下は収束すると考えられており、それを見越した設計がなされていたのです。ところが、それ以上に垂れ下がってきていることがわかってきた。これはいかんな、ということでどのように補修するかが、にわかに問題になってきたのです。
補修するとなると、かなり大掛かりになるので、平成15(2003)年の大規模補修工事(通行止め工事)の時しかチャンスはないことがわかっていました。私が保全技術係長になった平成12(2000)年には、すでに有識者も参加した検討委員会でいくつかの補修案は出ていましたね。しかし、沈下の原因が完全には特定できない中で補修案を検討しなくてはならないため、みなさんの意見は大きく分かれました。どういう対策が最も有効なのかをめぐって、かなり白熱した議論が交わされました。